自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1040冊目】地方公会計研究会『これならわかる新地方公会計』

これならわかる 新地方公会計―簿記・会計から実践まで

これならわかる 新地方公会計―簿記・会計から実践まで

公会計自体の仕組みはともかく、それ以外でいろいろ分かったことがある。

そもそも、なぜ地方公会計について書かれた本にはあまり良いものがないのか、という疑問に対するひとつの答えが、この本を読んで見つかった。どういうことかというと、発生主義・複式簿記式の新地方公会計に詳しい人というのは、要するに企業会計の専門家であり、行政部門の財務や会計については疎いことが多い。一方、行政の財務や会計の実情に詳しい人は、たいてい企業会計についてそれほど詳しくない。つまり、両方の知識を豊富に備え、両者をしっかりと架橋できる人材が少ないのだ。

だから、例えば行政財務の専門家の方が新地方公会計について論じると、それほど深い理解もないままやたらに複式簿記を持ち上げるようなことになるし、逆に企業会計の専門家の場合は、行政の特殊性や予算〜決算の流れについてあまりよく知らないまま、一般的な企業会計についての説明に終始することになる。まあ、これについてはある程度制度が熟してくるまでは仕方のないことなのだろう。両方を経験した人がほとんどいないのだから(発生主義会計を先駆的に導入した東京都あたりの担当者が本を書けば、けっこう良いものができるかもしれない)、これは書き手を責めるほうが酷というものだ。

そんな中、現段階においてはかなりの水準と思われる議論が、本書の第3章でなされている。行政の特殊性にも企業会計の仕組みについても熟知した上で、両方に目配りを利かせたしっかりとした論考となっている。行政の簿記が単なる現金主義ではなく支出負担行為を同時に記載するという発生主義的側面を併せ持っていることもしっかり書かれているし、資産や負債をトータルで把握することが行政にとってどういう意味をもっているのかについても、非常に説得力のある内容となっている。

一方、少々残念なのは第1章「作る−簿記の常識」と第2章「読む−会計の常識」。申し訳程度に公会計制度にも触れられているが、これでは単なる簿記や企業財務のテキストと変わらない。しかも、「これなら分かる」と書かれている割には分かりにくい。私はたまたま以前簿記の勉強をしたことがあったのでなんとかついていけたが、たぶん多くの人は第1章でザセツするのではないか。

したがって本書の読み方としておススメしたいのは、日商簿記3級〜4級くらいのやさしめのテキストを通読した上で第3章をじっくり読み、その後で第1章と第2章を流し読みするという方法。地方公会計がどうなろうが、いずれにせよ企業会計の知識は、一般教養として自治体職員ももっておいたほうが良いように思うのだが、どうだろうか。