自治体職員の読書ノート

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【1025冊目】佐藤優『地球を斬る』

地球を斬る (角川文庫)

地球を斬る (角川文庫)

インテリジェンス系の続き。この方、すでに著書は何冊か読んだが、読んでハズレと思った本が思い当たらない。しかも著作の幅がものすごく広く、毎回圧倒されてしまう。外務省には悪いが(いや、自業自得か)、この人が「表」に出てきてくれたことによる恩恵は計り知れない。

しかし、同時に佐藤優を外交の第一線から追いやったことによる国家的損失もまた、計り知れないものがある。私は外交に関してはまったくのシロートなのでえらそうなことは言えないが、本書で示されている分析の精緻さや判断の的確さの水準に、今外務省で働く外交官の何割が達しているのだろうか。尖閣諸島北方領土など、ここのところ外交では失点続きの政府であるが、佐藤優がその中にいても果たして同じ結果になっただろうか。

本書は「フジサンケイ ビジネスアイ」連載の一部、2006年から2007年3月にかけて発表されたものを単行本化した一冊。時期としてはちょうど小泉政権から安倍政権に移行したあたり、対外的には北朝鮮の核実験やミサイル発射、上海総領事館員の自殺などがあった頃だ。本書はそうした出来事について著者一流の「読み」を加え(ひょっとすると、「読み」に見せかけた極秘情報があるのかもしれないが……などと「深読み」するのもこの種の本の楽しさ)、日本の採るべき道を提示する。

失礼ながら少々意外だったのは、当時の安倍総理―麻生外相―谷内事務次官のラインが、インテリジェンスの面からするとかなり質の高い外交を展開していたという指摘だった。いや、安倍政権がどうこう言うつもりはないのだが、少なくとも当時、そうした見方は間違いなく少数派であり、マスコミや世論は内政であれ外交であれ安倍バッシングに明け暮れていた。もちろんその中で彼らを擁護していたのが産経系の新聞であり、また本書のような記事であったわけだが、そうした議論はどうしても「先に立場ありき」に見えてしまい、冷静な判断を下す目がわれわれ国民にも欠けていたのかもしれない。

それにしても、2011年の「今」からしてみると、本書の分析と予測の的確さはさすがである。特に「文庫版あとがき」の「北朝鮮のシナリオ」という一文は(これは2009年に書かれているが)面白い。たとえばこんなところは、どうか。ここ1年ほどの北朝鮮の動向は、ほとんどこの見方で説明がつくのではないか。

北朝鮮では、金日成の誕生年である一九一二年をチュチェ(主体)元年とする元号制を導入している。金日成生誕一〇〇年を機に、金正日氏(国防委員会委員長)から後継指導者へと権力を移譲し、チュチェ一〇〇年にあたる二〇一二年に改元を考えているのではないかと私は見ている」

今の外交姿勢が数年後にどう評価されるのか、私には見当もつかない。しかし、佐藤優を放逐したままでいられるほど、今の外務省が人材豊富なのかどうか、一抹の不安をもたざるをえないのも事実である。インテリジェンスというメスで世界を鮮やかに解剖する一冊。