自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1011冊目】久繁哲之介『日本版スローシティ』

日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

日本版スローシティ―地域固有の文化・風土を活かすまちづくり

職読。テーマは「地域活性化」。欧米の成功事例などを「直輸入」してあてはめるレディメイド型のまちづくりに対し、地域のライフスタイルを熟知する「地域市民」を主体とした、オーダーメイド型の地域活性化を提言する。

なるほど、と思ったのが「サードプレイス」という発想。日本では、特に学生や勤め人の生活はほとんど「住居」と「オフィス」の往復で完結しており、「地域」は単なる通過場所に過ぎないと著者は指摘する。本書はここに、カフェやスポーツクラブなど、憩いと交流の場としての「サードプレイス」を加え、地域そのものの意味合いを変えることを提言している。

また、「物語」を重視する点も共感できた。これは、地域の物語を掘り起こし、「物語消費型」の地域活性化を目指すというもの。このあたりが、地域の個性や魅力を最も発揮しやすい、言い換えれば地域の底力が一番出るところであろう。さまざまな要素を取捨選択して物語として絞り込む選択眼、それを巧みにアピールする演出力、具体的な施策につなげていく展開力。「地域市民」の総合力が試されるところだ。

 日本版と言いつつ西欧型のライフスタイルへの転換をうながすなど、ところどころ、議論の組み立て方としては気になる部分もあったが、豊富な具体例とそこから導き出される地域活性化の哲学はそれを補って余りある。なお「地域市民」とは、住民のみならず地域を訪れる人々を含めたコトバ。住民だけに閉じることなく、外部との交流を地域の活力とする「開放型」の地域を構築するという著者の考え方がよくあらわれた用語と言えよう。まちづくりの本質をしっかりと踏まえた、学ぶべき点の多い一冊。