自治体職員の読書ノート

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【1006冊目】大石久和『国土学事始め』

国土学事始め

国土学事始め

公共事業や国土整備といえば、かつては列島改造などと言われ、実際にも高度成長を牽引した花形的存在だった。しかし、ここしばらくはあまり旗色がよろしくない。だいたい、この財政難の折、まず槍玉に挙げられるのが公共事業だ。自然破壊も政官財の癒着も美観の破壊も、決まって悪役になるのは公共事業。工事によって地元土建業者を潤すこと自体が目的化したり、行政の縦割りから無駄な工事が行われたりと、まあマスコミに叩かれる理由には事欠かない。

しかし、だからといって十把ひとからげに公共工事すべてを「悪」と断じてよいものか。さにあらず、と主張するのが、本書の著者である大石氏である。その理論的な裏付けとなっているのが、本書の表題でもある「国土学」という発想だ。「国土学」とは聞き慣れない言葉だが、国土を「造られるもの」として捉え、そのあるべき姿を考える学とでも言えばよいだろうか。本書は、国土造成にたゆまぬ努力を注いできたわが国の歴史はもとより、西洋やアジアとの比較文明論、日本の国土の特性を捉えるための地質学や気象学、さらには行政学や財政学と、きわめて幅広い分野の知見を総動員し、国土学というひとつの「学」に集成したうえで、「造られた国土」としての日本像を明らかにする一冊。

著者は旧建設省に入省、道路整備や国土開発に一環して携わってきた方。いわば公共事業の推進役をずっと演じてきた人物だ。だから公共事業の肩を持つのは当たり前と言えば当たり前なのだが、そうした部分を割り引いても、本書で展開される議論には説得力がある。国土開発の連続ともいえる我が国の歴史、ただでさえインフラ整備が難しい国土の特性、諸外国と比べて決して十分とはいえない道路整備や港湾・空港などの状況……。

その視野の広さと見識の深さは、単なる公共工事礼賛論というより、かなり高度な日本国家論を拝聴している気分になってくる……と言ったら褒めすぎだろうか。残念だったのは、冒頭に列挙したような公共事業の「負」の側面に対する記述が少ないこと。国土造成というものがそれほどまでに重要で必要なのなら、なぜ今これほどバッシングの対象になるのか。そのあたりを反対側の視点で眺め、冷静に比較する余裕があれば、著者の主張がもっと説得力をもったかもしれない。やや残念。

ところで、実は本書、あるところで23区の区長のオススメ本が挙げられていたのだが、そこでわが区の区長さんが薦めていた本なのだ。ウチの社長さんの愛読書とはどんなものぞ、と興味半分で手に取ったのだが、いやはや、なかなかの出来栄えであった。ハード系の事業については、これまで正直あまり興味が持てないでいたのだが、この本でだいぶイメージが変わったように思う。公共工事に限らず、どんな分野でもその歴史と特性を知り、しっかりとした理念をもつことの大切さを、本書はあらためて思い出させてくれた。