自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1000冊目】吉田利宏・いしかわまりこ『法令読解心得帖』

法令読解心得帖―法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方

法令読解心得帖―法律・政省令の基礎知識とあるき方・しらべ方

前半が吉田氏による法令の読み方の手引き、後半がいしかわ氏によるリーガル・リサーチの方法紹介の2部構成。リーガルリサーチ関係もたいへん参考になるが、やはり吉田節の冴えわたる前半が面白い。

どの章にも小咄がついており、それがユーモラスで良い味を出しているだけでなく、しっかり本論の内容にリンクしているのがさすが。まあ、中にはかなり無理目のギャグも入っていて読んでいてちょっと苦しかったりもするのだが、それでも、法律関係の本でこれだけ楽しんで読めるものは珍しい。

考えてみれば法律の世界の「ルール」って、けっこう独特なものだ。本来、万人にわかりやすく誰もが理解できるのが法律のあるべき姿なのだろうが、実態はなかなかそうはいかない。もちろん、それはイジワルで分かりにくくしているのではなく、一定のルールを決めることで正確かつ一義的な理解を可能にしているということだと思うのだが、それにしたって……と思うものも時々ある。特に本書でひんぱんに登場する、いわゆる「一部改正法」に至っては何をかいわんや、である。

だからこそ、「正確さ」と「わかりやすさ」のあいだを架橋する本書のような本が重要になってくるわけだが、実際、本書は非常によくできている。笑えるメタファーが満載であるうえ、実際の「奇妙な」法令がたくさん引用されており、理解の助けになっている。しかもこの本、法律を「わかりやすくする」だけではなく、そのわかりにくさ自体を笑い飛ばすことでかえって法律の世界に親しみをもたせるという「高等テクニック」が用いられている。こういう書き方って、相当に法律の世界を俯瞰していないと、なかなかできないと思う。