自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【997冊目】渡邉泰弘・星川敏充『できる公務員の交渉力』

できる公務員の交渉力

できる公務員の交渉力

以前、杉山富昭氏の『交渉する自治体職員』という本があったが、たぶん「公務員(自治体職員)」と「交渉」を結びつけたタイトルはこれが最初だったのではないか。実際、この二つのコトバは、一部の部署を除いてはあまり結びつけて考えられてはこなかった。それは、自治体職員が交渉をしてこなかった、ということではない。日常的に交渉をしながら、それを交渉として意識していなかった、ということだと思う。

内部調整から窓口での住民とのやり取り、他の団体・組織など、自治体職員の仕事に「交渉」が占める割合は、実際にはかなり大きい。しかし、にもかかわらず多くの職場では、交渉の基礎的なノウハウや技術がほとんど共有されず、職員の個人的な力量差がモロに結果に直結している。

交渉ごとには相手に応じた当意即妙の対応が必要であって、なかなかマニュアル化しづらい部分がある、という事情は確かにあるだろう。実際、役所に営業に来られる方々を見ていても、うまい・へたが歴然と表れていて怖いほど。あれって、究極的には練習よりセンスなんだろうな〜、と、センスのない営業マンさんのトークを聞いていると思ってしまう。(余談だが、交渉力の絶好の訓練になるのが、役所の窓口に営業に来られる方々の観察だ。特に生命保険の勧誘員のトークは参考になる)

とはいえ、個人差以前の最低限の「キホン」というのは存在するのであって、そこを外していては、うまいへた以前に社会人として失格である。ところが、自治体職員にはそういう人が案外多い。窓口で腕組みをする人、敬語がちゃんと使えていない人、人の話を聞かない人、同僚の職員ですら何を言っているのかわからない案内をする人……。

こういうのは、本人の問題もあるが、ちゃんと注意しない周りの責任でもある。特に、若手なら周りも注意するが、ベテランと言われる年齢の方々だと、気になっても正面切って注意しづらい、という場合もあるだろう。ちなみに私の場合、以前はそういう対応をする職員にはやんわりと言っていたのだが、それでも嫌な顔をする(その上治らない)人もいて、今では係長を通して言ってもらうようにしている。

本書はそこまで低レベルの話が出てくるわけではないが、いろいろ事例を取り混ぜながら交渉の基本を教える一冊。内容は、まあビジネス書コーナーなどによくある交渉テクニック本と同じようなもので、公務員の特性などに合わせた改変があるわけではないので、この種の本をいろいろ読んでいる方には不要。というか、公務員でも民間でも求められる交渉力の内容はほとんど同じということなら、最初からビジネスマン向けの交渉術の本の中からスグレモノを探し出して読んだほうが手っ取り早いかもしれない。