自治体職員の読書ノート

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【996冊目】福田和代『オーディンの鴉』

オーディンの鴉

オーディンの鴉

※一部「ネタバレ」に近い部分があります。ご注意を。

ジョージ・オーウェルの『1984年』は、政府による監視社会を描く未来小説だった。ところが本書は、それ以上の徹底した一種の監視社会を描いているにも関わらず、「未来」ではなく「現在」の小説だ。その事実こそが、実は本書で一番恐ろしい。

本書自体はフィクションだが、本書に登場するさまざまな「監視手段」には、空想上のものはひとつもない。クレジットカードやキャッシュカードの記録。町中の監視カメラによる映像。ネットショッピングやネット上のコミュニケーション・ツールからの情報漏洩。あらゆるところにプライバシーの種は転がっている。それを組織的に収集し、活用することができれば、文字通り「世界を支配する」ことすら可能になる。

本書には、そのようにして個人情報を握られ、ネット上に流されることの恐怖がこれでもかと描かれる。町中に監視カメラがあり、カードでショッピングが行われ、その映像や情報が瞬時に世界中に出回る。その標的になったらいったい、どのようなことになるか。自分や自分の身内がそうなったら、どうか。そして、自分がその加害者にならないという保証はあるか。

さらに、その「力」は、実は双方向性のものでもある。実際、本書はネットの怖さを知らしめると同時に、ネットの力によってそれが解決されるという皮肉なストーリーになっている。結局、良くも悪くも現代人は、膨大な個人情報のやり取りの中で生活するしかないのであって、必要なのはその「覚悟」と「諦念」。本書は、そんな「リアル」を否応なく突き付ける。