自治体職員の読書ノート

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【987冊目】松岡資明『日本の公文書』

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

行政文書は、保管年限が過ぎたら廃棄するもの。情報管理のリスクを考えれば、保管は必要最小限に。入庁したころ、そんなふうに教えられたことがあった。しかし、これからはその「常識」が大きく変わるらしい。

昨年6月に成立し、来年4月の施行を予定している「公文書管理法」は、公文書を歴史的資料として位置づけ、その管理について定めた法律だ。その第1条には、次のように定められている。

第一条  この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

公文書管理については、実は日本は後進国の部類に入る。欧米諸国、中国、韓国といった国々が国家の公文書館を充実させ、多くの専門スタッフを揃える中、日本では専門職である「アーキビスト」の育成すらおぼつかない。本書によれば日本の国立公文書館の職員数は42人(2008年6月内閣府作成資料)、それに対してアメリカは2,500人、イギリス580人、オーストラリア450人、お隣の韓国は300人。中国やマレーシアでも職員数は3ケタが相場だという。保存年限を過ぎた文書のうちどれを公文書として管理し、どれを廃棄するかについてのルールも各省庁でバラバラだった。こうした状況に対して、遅まきながら最低限のルール付けをしたのが公文書管理法、ということになる。

日本はもともと、公文書管理に関してはそれほど見劣りする歴史をもっているわけではない。古代や中世の歴史文書は世界的にみてもしっかり残っているほうだという。徳川家康に始まる「紅葉山文庫」は江戸時代の将軍家のアーカイヴスであり、特に吉宗は記録管理や資料保存を重視した。明治政府も、文書によって新政府の正当性を後世に伝えるという理由から、記録文書の保管を再三にわたって指令した。

ところがそれが崩れてきたのが、太政官制度が廃止となり、内閣制度が発足した明治18年あたり。理由はよくわからないが、国家活動を歴史的観点から捉える大きな視座が、この頃から失われてきたのかもしれない。ちなみに現在に至る役所の公文書管理のルールは、この頃につくられたものがルーツになっているらしい。

公文書管理とは実は、歴史に学び、現在の行政活動もまた未来において歴史として学ばれるのだという基本認識の問題であるように思う。「今やっていることが将来にわたってアーカイヴスとして残る」と考えることは、実は公文書管理のみならず、そもそも仕事における認識の問題だ。われわれはそのような大きな視座と、あわせて、今の行政活動が後世において評価され、審判されるという謙虚な気持ちを忘れてはならないのだと思う。

ちなみに公文書管理法自体は国の各省庁を対象としているが、地方自治体については次の一文がある。ヒトゴトではないのですよ。

第三十四条  地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。