自治体職員の読書ノート

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【977冊目】アラン・ムーア/デイブ・ギボンズ『ウォッチメン』

舞台は1985年のアメリカ……というか、「スーパーヒーローがいる」アメリカという、一種のパラレルワールド

スーパーヒーローがいるという意味を、ここまで「リアルに」読み解いたのがまず面白い。ヒーローは要するに一種の「自警団」であり、彼らが活躍するがゆえに、警察は用なしとなり、警察官のデモが起きる。その結果、「ヒーロー禁止令」が出て、彼らは活動を禁止されている。

同時に、ヒーローのうち真に超越した力をもつDR.マンハッタンは、アメリカ政府に協力して冷戦に加担している。そのことが、米ソの力関係に大きな影響を与え、ヒーローの脅威を感じるソ連は、かえって核防衛に走ることになる。そのため、皮肉なことに「ヒーローがいる」ことが、かえって世界の危機を高めている。

そんな背景のもと、ヒーロー「ウォッチメン」の一人がビルの23階から墜落死する。そこにヒーロー抹殺計画を感じ取ったのが、ダーク・ヒーローのロールシャッハ。彼はヒーロー禁止令を無視して独自に「正義の裁き」を行い、7件の殺人容疑で警察に追われる存在だった。

物語はヒーロー抹殺計画を軸に、複雑多重に進み、その中でウォッチメンのメンバー一人ひとりが濃厚に描かれる。時間と空間が交錯し、ヒーローとは一体何なのかという問いの内に、物語はすさまじい展開を見せる。その裏側にあるのは、おそらく、「アメリカとは何なのか」という問いではないか。アンチ・ヒーローのコミックかと思って読んだが、実はこれは「アンチ・アメリカ」の告発の書なのかもしれない。

そして、本書はとにかく一つ一つのコマが濃密で、一見なんということもない絵の中に、さまざまな意味が隠し絵のように織り込まれている。その一端を明らかにしているのが、巻末に付いているアラン・ムーアの脚本。最初の1ページと最後の1ページの分だけが載っているのだが、その指示の細かさと周到さ、そこに込められた将来の物語への暗示たるや、尋常ではない。これに匹敵するコマの濃度をもったコミックが、はたしてこれまで存在しただろうか。せいぜい思いつくのは、江戸時代の黄表紙の、やはり豊饒な意味が一見普通の絵の中に織り込まれた作品とか、あとはフェリーニヒッチコックの映画の多重性くらい?

まあ、そういったことは置いておくとしても、本書は単にコミックとして極めつきに面白い。「ヒーロー」たちもそれぞれに強烈な魅力をもっているし、ストーリーも実にスリリング。ただし、決して「わかりやすい」お話ではないので、そのつもりで。