自治体職員の読書ノート

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【974冊目】苅谷剛彦『知的複眼思考法』

タイトルからは特殊な思考法を開陳するのかと思いきや、本書で展開されているのは、むしろ思考法の「王道」。自分の頭で考えるとは一体どういうことなのかを、徹底的にメソッド化して示してくれている。

特に本書で強調されているのが「ステレオタイプ」の危険性。一定の前提を無批判で受け入れることで、思考停止が起きる。それを避けるには、情報を的確に捉え、筋道を立てて物事を考え、自分の思考を自分でモニタリングする必要がある。それはつまり、「思考に手を抜くな」ということだ。楽をしようと思ったその瞬間、われわれは既存の「型にはまった見方」にあぐらをかき、世間一般の意見に追随してしまう。そんな状態を回避するための方法論は、すべて本書に書かれている。しかも練習問題付きで。あとは読み手の意識の問題だ。

特に第1章の「創造的読書」は、読書ノートとしては外せないトピックだろう。これは要するに、本を鵜呑みにせず、批判的に読むスタンスを身につけよ、ということ。その具体的なポイントが20個挙げられているが、全部ここで紹介すると大変なので、それをまとめた4項目を挙げてみると、まず「眉に唾して本を読む」、次に「著者のねらいをつかむ」、次に「論理を追う」、そして「著者の前提を探る」。この4要素を読書前に頭の中で復唱するだけでも、本の読み方が全然変わってくる。

読書法以外にもいろんなテーマが取り上げられているが、ひとつ重要と思われるポイントを挙げるなら、「積極的に問いを立てる」ことだろうか。これまでの受験勉強などの世界では、「与えられた問いに答える」ことが重視されてきた。しかし、実際の世の中では、具体的な「問題文」が与えられることはまずないと思ってよい。世の中の問題解決というものは、そもそもその問題を見つけ、「問い」として成立させることから始まるのだ。その意味で、本書の核となっているのは第3章の「問いの立てかたと展開のしかた」だと感じた。

ただ実生活では、本書のようにすべての物事を「複眼的に」見ることはなかなか難しい。むしろある程度のところまではステレオタイプともうまく付き合いつつ、重要なポイントでは「複眼思考」のメソッドを適用するという、二段構えの知的態度というものがあってよいようには思う。小津安二郎の「どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う」という言葉が、読み終わってから浮かんできた。