自治体職員の読書ノート

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【973冊目】横石知二『そうだ、葉っぱを売ろう!』

今やすっかり有名になってしまった徳島県上勝町だが、最初にこの町のことを知った時は、ホント、仰天した。

なにしろその町は「葉っぱ」を売っているというのである。しかも売り手は70歳とか80歳以上のおばあちゃんで、それもパソコンを使って受発注のやりとりをしているという。う〜ん、これはいったいなんなんだ、と思った。

これだけだと、単に「地方のユニークな試み」というだけに終わる話かもしれない。しかし、本書を読む限り、その実情はよくある「変わった町おこしの実例」というレベルをはるかに超えている。

第一に、この商売はしっかり「ビジネス」として成立している。手弁当のボランティアではなく、しっかり「儲け」が出ており、それがおばあちゃんたちの懐を潤し、地域の活性化につながっている。言い換えれば、「儲けるための仕組み」がきちんとできている。

第二に、ビジネスとして成り立っていながら、そこにはビジネス特有の殺伐とした空気が感じられない。競争はあるのだが、それが人の心を削るような方向ではなく、むしろ人の心を生き生きとさせ、エネルギーを与えるような方向に作用するようになっているのだ。これもまた「仕組み」のうまさであろうが、それだけではない。仕組み自体はどんなによくできていても、本来的には「冷たい」ものだ。ところが上勝町の場合は、そこにしっかりと、人の熱い「気持ち」が込められている。横石さんの書かれた手書きのFAXの一例が本書に掲載されているが、それがすべてを物語っている。どんなにパソコンを駆使しても、最後に人の心に届くのは、気持ちを込めた「手書き」なのだ。

カール・ポランニーは、かつては社会に経済が埋め込まれていたが、今は経済に社会が埋め込まれている、と言った。上勝町で起きているのは、地域社会というコミュニティに、葉っぱビジネスという経済が埋め込まれている姿であるように思う。ここにあるのはおそらく、市場社会以前の、本来の経済の姿なのだ。経済が社会を支配し、解体するのではなく、経済が人々のきずなを強め、コミュニティを強化し、人の心を生き生きとさせている。これはものすごいことである。

ひとつのキーポイントは、男性ではなく女性を、しかも「おばあちゃん」を主人公にしたところだろう。そういえば、ムハマド・ユヌスバングラデシュで始めた少額無担保融資のグラミン銀行も、顧客のほとんどは女性だった。著者によると、男性は「評論家」になってしまうから、ダメなのだそうだ。特に「役付き」の男性がもっともタチが悪いという。同じ男性としては残念だが、まったく同感。実際には世の中の仕事の7〜8割は女性がやっているのだから、重要なのは、女性をメインステージに引っ張り出し、活躍させるための「仕組み」を整え、そこに「気持ち」を入れること。それがまさに、横石氏が上勝町でやったことであり、ユヌスがバングラデシュでやったことなのだと思う。

そして特筆すべきは、この横石氏の身を削るような仕事ぶり。徹底して現場に身を置き、見返りなど求めず文字通り粉骨砕身の働きを果たした。「それなり」に熱心な人はいくらでもいるが、なかなかここまで徹底してできるものではない。脱帽。