自治体職員の読書ノート

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【971冊目】奥田英朗『無理』

無理

無理

村上龍はかつて「この国には何でもある。ただ、希望だけがない」と書いた。それにならって書けば、「この町には何もない。そして、希望もない」ということになるだろうか。

本書の舞台は、東北の架空の地方都市、ゆめの市。そこに住む5人の男女の人生がそれぞれに描かれる。

30代、バツイチの市役所勤めのケースワーカー。この町に心底嫌気がさしている女子高生。詐欺まがいの商法で生活する暴走族あがりの若者。スーパーで保安員をしつつ、新興宗教にハマる中年女性。父親の地盤を引き継いだ野心家の市議会議員。共通点はいずれもゆめの市に身を置き、そこで働き(あるいは通学し)、生活していること。まったく互いに縁がないはずの5つの人生。ラストで5人は確かに「一堂に会する」が、しかし基本的にはお互いのことを知らないまま。むしろラストはつけたしで、5本の人生の糸が、それぞれにたどられている小説とみたほうがよい。

自治体職員としては、やはり興味を惹かれてしまうのがケースワーカーの相原だ。地方都市を覆う閉塞感と矛盾が福祉の現場に積み重なり、理不尽な事態を次々に引き起こす。また、恨みを買ってダンプカーで轢き殺されそうになるシーンには慄然となった。人ごとではない。また、市議会議員の山本も別の意味で面白い。地方都市の疲弊を嘆きつつ、その尻馬に乗って利権にたかっているなど、ブラックユーモア以外の何物でもない。

しかし本書の主人公を挙げるとすれば、やはりそれは「ゆめの市」そのものであるというべきだろう。郊外にできた大型商業施設のおかげで中心市街地はシャッター通り化し、車がなければ買い物もできない。団地は荒廃し、暴走族とブラジル人少年グループの抗争が起き、パチンコ屋の駐車場では白昼堂々の主婦売春が行われる。「地方の衰退」「中心市街地の空洞化」などといったコトバが、お題目ではなく、すぐ目の前にあるリアルな出来事としてつきつけられる。それはまた、日本の地方でいったい何が起きているのか、という問いに対する、辛辣きわなりない答えである。

本書に救いはない。小説は、5人の人生の転落を目の前にしてぶつりと途切れる。次のような言葉を残して。

「国道の歩道に通行人はなかった。いつもは満艦飾の看板群も、寒さと曇天のせいか、すべて灰色に見えた。
それはこの町の色であるかのようだった。」