自治体職員の読書ノート

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【957冊目】加賀乙彦『小説家が読むドストエフスキー』

小説家が読むドストエフスキー (集英社新書)

小説家が読むドストエフスキー (集英社新書)

キリスト教」と「善と悪」で、ドストエフスキーに補助線を引く。初読のための勇気と、再読のための自信を与えてくれる一冊。

本書で取り上げられているドストエフスキーの5作のうち、読んだことがあったのは『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』『白痴』、未読は『死の家の記録』『悪霊』だった。ここで問題なのは、実は読んだことがある3冊のほう。特に最近読んだ『白痴』が、読んでいて全然「噛み切れる」感じがしなかったので、気になって手に取った。

普段は、小説を読むときに作家論や解説などはあまり手に取らないほうなのだが、さすがにドストエフスキーは手に余った。それも、まったく何が書いてあるのだかちんぷんかんぷん、という場合は、時期尚早とあきらめてサヨウナラ、としてしまうのだが、『白痴』の場合、噛み切れないなりに「ここにはすごいことが書いてありそうな気がする」というオーラを小説自体からビンビン感じていただけに、それが何なのか気になってしょうがなかった。

できればもう一度読み直して正体を確かめたいところなのだが、あのボリュームを立て続けに2回読むのは正直しんどい。そこで、めったに手を出さない「解説本」に頼ることにしたワケだ。ドストエフスキー論といえばバフチンをはじめ有名どころが多く、国内でも小林秀雄あたりが有名だが、原典に劣らず歯ごたえがありそうなものは遠慮したかった。

本書は新書というサイズに加え、著者自身が小説家であり(大学時代にはこの方の本をずいぶん読んでいた)、同時に精神科医で(しかも拘置所の医務技官)、さらにご自身もクリスチャンという、まさにドストエフスキーを語るにはうってつけ。なぜなら、ドストエフスキーの小説そのものが、小説家としての技巧を尽くしたものであり、さらに自身のシベリアの監獄での体験が大きな影響を与えており、その上、キリスト教的なテーマがしつこいほど繰り返し繰り返し登場するのだから(その集大成というべきが、いうまでもなくカラマーゾフの「大審問官」)。

そして、本書はカルチャーセンターでの講義を書籍化しただけあって、ものすごくわかりやすく、読みやすい。著者ご自身のバックボーンを十全に活かした、著者でなければ語りえないドストエフスキー論になっている。『白痴』の読み直しもやりたいが、まずはこの本片手に、大学時代に読んでやはり噛み切れなかった『カラマーゾフの兄弟』に、再挑戦してみようかな。