自治体職員の読書ノート

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【937冊目】石井光太『絶対貧困』

絶対貧困

絶対貧困

世界でもっとも「貧しい人々」のリアル。何もできないかもしれないが、知らなくてよいことにはならない。目を背けること自体が、新たな悲劇を生みだしている。

世界中のすべての人間のうち、1日1ドル以下で生活しているのは約5人に1人。1日2ドル以下なら約2人に1人。飢餓状態又は不安定な食糧供給に依存している割合、読み書きができない割合、保険医療サービスを受けられない割合は、約8人に1人。飲料用の水が利用できないのは4人に1人。

本書の冒頭に掲げられた「統計データ」の一部である。さて、ではここからどういうイメージをもつべきか。たぶん私を含めて多くの人は、こうした数字を見ても、「貧困層」「スラム街」等を漠然と連想するにとどまるのではないだろうか。インドやアフリカなどに行ったことがあれば、そこで見た物乞いや売春婦の姿を重ね合わせるのかもしれない。

そうしたイメージは「間違っている」わけではない。しかし、実際にはそうした「貧しき人々」の内実は、われわれがイメージするよりもずっとずっと多様で多彩である。スラム街、路上生活者、物乞い、物売り、ストリートチルドレン、売春婦……。そのいずれもが、国や地域、貧困層内部でのさらに微妙な階層差によって千差万別の姿を見せる。上に挙げたデータはあくまで「データ」であって、その裏側に広がる「リアル」の広がりを想像するためには、その実態を知らなければならない。

本書はそうした「多様なリアル」を、徹底した現場目線から紹介した一冊である。廃品回収で生計を立てるということのリアリティ、路上生活者の性生活についてのリアリティ、ストリートチルドレンから少年兵となることのリアリティ、売春婦の子供が周囲の貧困層の子供よりずっと高い学歴を身につけていくというリアリティ……。そこで繰り広げられる現実は、細部に深く切り込んでいるだけに圧倒的な力をもって読み手に迫ってくる。

彼らの生活が、単に「悲惨」「かわいそう」などという薄っぺらな言葉でくくれると思ったら大間違いだ、ということもよく分かる。もちろん中には、物乞いのために子供の目をつぶしたり四肢を切断する、両親が目の前で惨殺された少年が悪夢から逃れるため確信犯的にシンナーに走る、といったすさまじく悲惨な事例もあるが、一方では、物売りや物乞い、売春の日々の中には、ある種の突き抜けた明るさやユーモアを感じる事例も登場する。彼らもまたしたたかに、たくましく生きている。

著者は、現場を知り尽くしたうえで、おそらくはあえて、必要以上に深刻にもマジメにもなりすぎず、むしろ失敗談やユーモアを交えた明るい調子で本書を書いている。その調子には読んでいて救われると同時に、貧困についてのリアルを感じる際のバランス感覚を教えてもらったように思う。できることがあろうがなかろうが、まずは見て見ぬふりをやめて、直視すること。そこからすべてを始めること。まずは、そこから始めるしかないのかもしれない。