自治体職員の読書ノート

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【934冊目】神野直彦『財政のしくみがわかる本』

財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

財政のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

財政学の基礎から日本の財政をめぐる解説まで、コンパクトだが非常に充実した記述がなされている一冊。煽るような報道が乱れ飛ぶなか、本当の問題は何なのか、がクリアに見えてくる。

岩波ジュニア新書だが、大人が読んでも歯ごたえ十分。ジュニア向けの棚にあるのがもったいない。

「財政とは何か」という基本中の基本から説き起こし、経済と財政、予算や租税の仕組みをホントーに分かりやすく解説している。枝派の部分は思い切ってカットして、幹の部分をしっかりと示しているため、大部の参考書よりもかえって本質部分が良く見える。そして、そこで示された本質論が、そのまま近年の日本(特に小泉改革)の財政論議に対する厳しい批判になっており、なかなか読ませるものがある。

例えば、歳出削減や税負担アップの理由としてよく言われる「日本は借金をたくさん抱えており、このままでは破産しかねない」という議論について。もちろんムダな経費をどんどん削るのは当然だが、福祉や医療、社会的なセーフティネットに対する支出、自治体との関係で言うなら地方交付税までが、とりわけ小泉・竹中コンビのもと、財政健全化と新自由主義の名の下で削減されてきたことに、著者は異を唱える。

国家の「借金」そのものが本質的な問題ではない、と著者は断言する。なぜなら、日本国の「借金」はすべて内国債で賄われており、対外的な債務があるわけではないし、その利払い費だけを見れば先進国中でも低い率におさえられている。また、確かに負債も大きいが、一方で多額の債権(財産)も有している。それに、インフレ誘導や国債保有者への課税という方法(極端にいえば、国債保有者に対して「国際保有税」を税率100%でかけてしまえば、日本国の債務は消滅する)など、借金を解消するために、国にはいろいろな打つ手があるのである(実際に、戦後間もない時期、戦時中の国債を償還するため一回限りの財産税を富裕層に賦課したことがある)。

むしろ問題は、借金の償還費用が歳出予算のおよそ4分の1を占めており、福祉社会保障への有効な支出がこれによって圧迫されていることだろう。そのため、財政が本来もつべき所得再分配機能が阻害され、ひいては地域間格差が生じる一因となってしまっている。

そして、国の借金よりヤバイのは地方の借金である。先ほど挙げた「国の借金が多くても大丈夫な理由」が、地方債ではすべて逆転する。つまり、地方債はほとんどが「外債」であり、償還によってお金が地域外に流出する。また、インフレ政策や課税などの手段を、地方政府は取りえない。さらに問題なのが、この読書ノートでもさんざん書いてきたが、法令や補助金によって、あまりにも国が地方の事業内容を左右しすぎており、借金を回避するため歳出削減を図ることにさえ限界があるという日本の「集権的分散システム」の病弊だ。

このようにして、本書は財政問題を通して、日本の国と地方の関係、ひいては「国家」のありようまでを見事に浮き彫りにしているといえる。その結論部分、「社会的な危機や経済的な危機を解消して、社会を一つのものとしてまとめていくことが使命である財政が、日本の場合は有効に機能していない」「日本では政府が財政責任を放棄してしまっている」という指摘は、重い。思うに財政とは、単にプラスであればよいというものではなく、それを通じて望ましい社会状態を創っていく重要なツールなのである。

ちなみに著者は現在、政府税制調査会の専門家委員会で委員長を務めておられる。その中間報告について新聞が報じているが(記事はコチラ。また概要版はコチラ)、さて、これからどうなるか。難しい局面に差し掛かってきているところだとは思うが、自民党政権下でガタガタになった財政と社会保障を二つながらどこまで立て直せるか、まずは期待をもって見守りたい。