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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【931冊目】延藤安弘編著『人と縁をはぐくむまち育て』

人と縁をはぐくむまち育て―まちづくりをアートする

人と縁をはぐくむまち育て―まちづくりをアートする

まちを新しくつくる「まちづくり」ではなく、その中に埋もれているもの、眠っているものを発見し、そこから地域を活性化していく「まち育て」。そのエッセンスがぎゅっと詰まった一冊

延藤安弘氏の千葉大学退官をきっかけに、その「まち育て」の展開と成果をたどる集いが開かれた。その内容をまとめたのが本書。公団団地の建て替え、北沢川の「復活」、三番瀬の守り育みなど、豊富な実践例を通して、延藤安弘という稀有の人物の思想と軌跡をたどるものとなっている。

それまでなんとなく名前は聞いたことがあったのだが、いやはや、延藤安弘という人がこれほどとは思わなかった。理論にも詳しいが、とにかく徹底して現場に立ち、現場を読む見つめ、さらには動かしていくことで、思いもかけないものが立ちあがってくる。

さらに、この人はいろいろな利害関係者が絡み合うまちづくりの現場で、「敵」をつくるということをしない。事なかれ主義なのではなく、そのスタンスや考え方があまりにもやわらかく融通無礙なので、どんな反対意見でも絶妙にそれをくるみこみ、かえってそこから新たな発想が生まれてきたりする。どうしてそんなことができるのだろうか。まるでマジックだ。「無敵とは敵をつくらないこと」という言葉を思い出した。

そして、言葉の使い方が見事。「ゆるゆる」「ぬめぬめ」「どろどろ」といったオノマトペイア、「もやい」「まちの縁側」といった言葉、「おでんのようなコミュニティ」といったメタファー、「ワクワク・アンド・リーズナブル」「タンケン・ハッケン・ホットケン」のような標語っぽいものまで、まったくみごとというほかない。行政が使うようなハードな言葉遣いとは真逆の、ソフトでマージナルな、聴き手の心の奥の一番柔らかい部分にすとんと入ってくるような言葉ばかりなのだ。

そして、この人の活動には、いたるところに「遊び心」と「ユーモア」がみなぎっている。そうなのだ。まちづくり・まち育ては、「遊び感覚」を忘れたらオシマイなのだ。しかし、お互いの利害が対立し、考え方がぶつかる中で、われわれはどうしても遊び心を忘れてしまう。そして、心がどんどん硬くなり、相互不信になり、話し合いは空中分解するのである。延藤氏はそういう状態を回避するため、いろいろな仕掛けを打ち、遊びを混ぜ込んでいく。特に、子どもに参加してもらうと場がなごみ、思わぬ発想が出てきて大人の刺激にもなるようである。

現場に立ち、言葉を駆使し、そして遊びを忘れない。そして、やわらかく、マージナルでボーダレスな感覚で、地域の「力」を絶妙に引き出していく。この発想やこのスタンス、「まち育て」の方法としても重要だが、普段の仕事に対する発想やスタンスとしても、学ぶところがとても大きい。この人の本、もっといろいろ読んでみたい。