自治体職員の読書ノート

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【924冊目】ラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告』

インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)

インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)

コロンブスによる「発見」以降、南米を吹き荒れた暴虐と無法の嵐を、同時代の司教ラス・カサスが国王に告発した一冊。胸が悪くなり、吐き気を催す「不朽の名著」。

訳注・解説を含め200ページほどの本であるが、ほとんどすべてのページを埋め尽くしているのは、善良で無垢なインディオに対するスペイン人たちのすさまじい残虐行為。村を襲って領主を捕え、財宝の在り処を吐かせるために縛りつけて、骨が見えるまで足を火あぶりにする。奴隷として労働に駆り出せば、休息も食事も一切与えずに死ぬまでこき使う。首についている鉄枷を外すのが面倒なので、過労のあまり倒れたインディオがいると、その首を切り離す。狩りのために連れている猟犬の腹が減ると、母親から幼児を取り上げて手足を切り刻んで餌にする。狭い家にインディオたちをぎっしり詰め込んで火をつけ、生きたまま焼き殺す。「恐怖感を抱かせれば統治しやすい」という理由だけで、何の罪もないインディオを数十人単位で処刑する。耐えかねて山に隠れれば、猟犬を使って狩りだして全滅させる。反撃しても、ほとんど裸なうえに武器と言えば弓矢や槍程度のものしか持っていないインディオが、馬に乗り、銃をもったスペイン人にかなうわけはない。

まったく、書いているだけで気分が悪くなってくる。実はこの本、スペインでは本書は長らく発禁とされ、ラス・カサスは「スペイン人の名誉を失墜させた」として非難された。一方でスペインを非難するオランダなどでは、この本が反スペインのプロパガンダとして使われたというが、確かに読んでいると、スペイン人とはなんとザンコクな連中なのか、と思ってしまう。

しかし、コトはスペイン人だけの問題であろうか。歴史を振り返ると、実は古今東西、さまざまな国や民族の中で似たようなことは何度も起きている。むしろ、本書で書かれているのは、スペイン人という特定の国民だけではなく、むしろ人間そのものが本源的にもつ残虐性と理解すべきではないだろうか。南米先住民を襲った悲劇は、北米先住民の虐殺や中国大陸における旧日本軍の蛮行、さらにはナチスドイツのホロコーストと並んで、人間が(つまり、「私」や「あなた」が)どこまで残虐になりうるかという、自分の中にひそむ悪の極限を認識するための一例として捉えるべきであろう。

もうひとつ、現在のラテンアメリカを理解するにあたって、このような徹底的なジェノサイドがかつて行われたことを知ることは欠かせない。本書に書かれたような残虐行為に加え、西洋人の持ちこんだ感染症によって、南米のインディオの人口は激減した。彼らの社会や文化、習俗は人間ごと根こそぎ破壊され、ほとんど失われた。その圧倒的な喪失と断絶のうえに、今のラテンアメリカ諸国は存在していることを、われわれは忘れてはならないように思う。

ラス・カサスについては、実はいろいろな評価がある。初期には黒人奴隷を正当化するような発言をしたとか、キリスト教による「未開人の改宗」というおのれのミッションそのものには疑いを持たなかった点など、確かに21世紀の視点から見れば気になるところはないでもない。しかし、世界史では「大航海時代」などと言われ西洋人の世界「進出」がもてはやされた1542年という時代に、同時代の証言としてここまでのものを残した功績については、やはり素直に認め、後世の人間として感謝すべきなのだろうと思う。