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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【922冊目】クロード・レヴィ=ストロース『レヴィ=ストロース講義』

歴史・文化・民俗

レヴィ=ストロース講義 (平凡社ライブラリー)

レヴィ=ストロース講義 (平凡社ライブラリー)

文化の多様性と人類の本質をめぐる絶品講義全3講。人類学の果たすべき役割から、日本についての深い洞察まで、レヴィ=ストロースの知性の冴えを味わう一冊。

第1講のテーマは人類学の役割。人類学は、単に物珍しい異国の風習を興味本位で探る学問なのではなく、それを通じて「われわれの社会」について知るという「方法論」であるらしい。西洋文明の価値観が揺らぎつつある今こそ、そうした人類学の方法が脚光を浴びつつあるし、また浴びるべきなのである。

「私たち自身のものに比べて、どれほど衝撃的で非合理に見えるものであっても、それぞれの社会の慣習や信仰は、ある体系を成していること、そしてその内的均衡は、数世紀をかけて達成されたものであり、たったひとつの要素を除くだけでも、全体を解体させる危険がある、ということです」

第2講では「性」「開発」「神話」の3つのテーマを人類学的視点から考える。

「性」では、社会によって驚くほど異なる性的習慣の多様性を見ることで、西洋文明の価値観がその中の「ワン・オブ・ゼム」にすぎないことを告げる。人工授精などの現代的テーマを人類学の視点で論ずるところなど、まさにレヴィ=ストロース先生の独壇場。

「開発」では、いわゆる未開文明に対する西洋文明の「開発行為」の問題点を指摘し、開発を忌避する社会を「野蛮」と見るのではなく、それ自体が自然と一体化した調和の世界を形成していると見る。

「神話」については、歴史と対比しつつ神話の役割を再評価し、異なる社会へのアプローチのひとつとして規定する。歴史が「現在は過去と異なる→未来は現在と異なる」と考え、変化を肯定するのに対して、神話の世界においては、現在は過去の再生産であり、したがって未来は現在の再生産であると説く。それはそのまま、西洋文明といわゆる未開社会の世界観の違いとなっていく。

第3講では日本が大きく扱われる。西洋文明にさらされた多くの社会と異なり、日本は明治以降、自らの独自性を保存しつつ、西洋文明を受け入れることに成功した、と著者は語る。その背景には、歴史の中で「異文化の受容」と「自らの文化の醸成」を交互に行ってきた日本文化の蓄積がある。

江戸に西洋を接ぎ木するような明治維新の矛盾と葛藤が現在まで尾を引いていることを思うと、この高評価には複雑な気分であるが、こう書かれると、確かに日本は、西洋文明に呑み込まれつつある「未開社会」に対して、ひとつのモデルを提示できているのかもしれない。

「つまるところ、私たち西欧人が日本を見るとき、次のことが確かめられるのです。すなわち、それぞれの個別文化と人類の諸文化全体が、ともに存続し、繁栄してゆくためには、外への開放と内へのひきこもりという二つのリズム、ときにはズレを生じ、ときには同調する二つのリズムが必要だということです」


本書は、日本で行われた講義録をベースにしているだけあって非常に分かりやすく、しかもその中に、文化人類学の核心に触れるような言葉がたっぷりと含まれている。日本に対するレヴィ=ストロースの知見の深さも驚くべきものがあり(柳田國男世阿弥本居宣長まで出てくる)、日本人としてもなかなか楽しめる一冊。