【914冊目】姜尚中/テッサ・モーリス−スズキ『デモクラシーの冒険』
- 作者: 姜尚中,テッサモーリス‐スズキ,Tessa Morris‐Suzuki
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2004/11
- メディア: 新書
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デモクラシーが機能不全に陥りつつある現在の日本、そして世界の状況を多面的かつラディカルに問い直し、そこからデモクラシーの復権を探る対談。
デモクラシーという「制度」は存在するものの、人々の意思を政策に反映させるという「機能」が、日本に限らず、デモクラシーを採用する多くの国で失われつつある、という危機感が本書の前提にある。典型例がイラク戦争。様々な調査で、国民の過半数が「反対」を表明したイラク戦争は、アメリカでも日本でもオーストラリアでも、「民主的に選ばれた」政府によって遂行された。そこに見られるのはデモクラシーの「空洞化」であり、人々の意思を政策に反映させる「ボタン」の不在。そのような状況が繰り返される中で、人々はデモクラシーに対して無気力になり、期待を失っていく。
ではどうすればよいのか、という問いかけを、二人は様々な角度から検討する。市場主義によるデモクラシーの衰退を考察し、デモクラシーの歴史をたどり、ポピュリズムや「世論」やメディアについて論じる。その話題の幅はたいへん広く、いずれ劣らぬ論客の二人だけに、話の展開もなかなかエキサイティング。特にポピュリズムやナショナリズムに対する危機感はとても強いものがある。
一方、デモクラシーそのものの存在意義については、ある種「所与の前提」となっている印象がある。デモクラシーそのものの価値は前提として肯定したうえで、それをまともに機能させるための条件整備が考えられている。デモクラシーそのものを問い直すという類の本ではないので、念のため。
デモクラシー復権のための処方箋として二人が挙げている内容は、かなり「リベラル」寄りなので受け付けない人もいるだろうが、個人的には、なかなかラディカルで面白かった。いや、面白いだけでなく、ある種の極論をあえて提示することで、デモクラシーそのものの本質に深く切り込んでいるように思う。本書末尾の「みんなでつくるデモクラシー・マニフェスト」にその内容がまとめられているので、最後に引用してみる。
1 もっとも不利益をこうむる者が、もっとも発言力をもつ。
2 デモクラシーは、自宅から始まる。
3 すべての人間は、外国人である。
4 すべての人間は、世間に迷惑をかける権利もある。
5 すべての人間は、権力による抑圧に抗するために、失敗を恐れずに行動する権利がある。
6〜9 (読者自身の言葉で埋めるよう示唆されている)
10 すべての人間は、自分たちの暮らしをよりよい方向に変えられるボタンをもつ。