自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【910冊目】日経グローカル編『地方議会改革マニフェスト』

地方議会改革マニフェスト

地方議会改革マニフェスト

雑誌「日経グローカル」での連載が元になっているらしいが、執筆陣が良い。自治体議会政策学会会長の竹下譲氏、北海道栗山町で議会事務局長を務め、全国初の「議会基本条例」制定の立役者のひとり中尾修氏、議会改革と言えばこの人、の江藤俊昭氏、そして行政論や地方自治論の大森彌氏と充実している。著者名がオモテに出ていれば、たぶんこの本はもっと早く手に取っただろう。もったいない。

この執筆陣なら内容も保障されたようなものであるが、実際なかなか良くできていると思う。議会改革という同じようなテーマで、しかも4人が比較的同じようなベクトルを向いているため、けっこう重複している部分もあるが、全体の議論の流れのことなのでそれほど気にならない。

さて、議会改革論を続けて読んで見えてくるのは、「議会改革」というと何か目新しいことをやるように見えるが(実際に目新しいことをやってはいるのだが)、その根本にあるのは、「本来の議会とはどういうものなのか」という問いかけなのだ、ということであった。特に、国のような議院内閣制とは異なり、首長と議会が並び立つ現行の議会制度(本書では「機関競争主義」と呼ばれている)において、議会とはそもそもどういうもので、いかなる役割を期待されているか。そして、それに比べて、現在の地方議会はどうであるか。そのことを不断に、ラディカルに問い直すことが、すなわち議会改革なのである。

議院内閣制を採っている国会であれば、国民から選ばれた議員の中から内閣総理大臣が選ばれ、総理によって組閣された内閣が行政を担う。そのため、総理大臣を出した「与党」は内閣(行政)側に立ち、野党はそれを攻撃する。一方、地方議会では議員と首長は別々に選ばれているのであって、本来、与党とか野党という枠組みは存在しないはずだ。ところが実際には、多くの議会で首長側に立つ「与党」と反対勢力たる「野党」が存在する。そして、与党は与党としてのスタンスで「質問」し、議決に臨む。野党もまた同じである。そこには、首長と対峙し、競争する機関としての「議会」の姿はみられない。議会という機関は、内側から「与党=首長サイド」「野党=アンチ首長サイド」の2派に引き裂かれているといってよい。

それは本来の地方議会の姿ではない、というのが、本書の著者の共通した立場である。議会はもっとひとつの機関として独立性をもち、力をつけなければならない。それは政策立案能力であり、住民への説明能力であり、討議の能力である。そのことに気づき、実践を重ね、議会基本条例という形にしたのが栗山町であり、伊賀市であり、三重県であった。それは繰り返しになるが、何も新奇なことを始めたわけではない。むしろ地方議会という存在の本質に立ち返り、当たり前のことを粛々とやっているだけだ。それが物珍しく思えてしまうということは、自分たちの議会こそ、本来あるべき姿からかけ離れた奇妙な姿をさらしている、ということなのだ。同じことは行政にもあてはまる。ウカウカしてはいられない。