自治体職員の読書ノート

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【908・909冊目】宮本太郎『福祉政治』『生活保障』

福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー (有斐閣Insight)

福祉政治―日本の生活保障とデモクラシー (有斐閣Insight)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

日本の生活保障制度の「これまで」を振り返り、「これから」を構想する2冊。『福祉政治』のほうが過去の分析に重点を置いているのに対し、『生活保障』のほうは、スウェーデンなどの事例を検証しつつ、将来の制度設計を描くほうに比重がかかっている。

「生活保障」は、大きく「雇用レジーム」と「福祉レジーム」から成る。この両者はいわばわれわれの生活を守る2段構えの仕組みであって、著者の例えでいえば「ロープ」が雇用なら、その下にあるネット(まさしく「セーフティネット」)が福祉である。両者のバランスは国によって異なるが、両方の仕組みがしっかり機能していることが、個人や家族の生活保障につながる、という点は同じである。

日本におけるこれまでの「雇用」と「福祉」の関係は、一言でいえば「雇用重視」。政府の福祉面への支出は比較的小さく、福祉機能は雇用内部(つまり会社の福利厚生)で賄われてきた。福祉支出は会社をリタイアした後の高齢者に集中し、「人生前半の社会保障」は、会社がほとんど丸抱えしてきたのである。これを下支えしたのが、終身雇用制の雇用慣行の下での手厚い福利厚生であり、公共事業の「ばらまき」や手厚い中小企業政策であった。

ところがバブル崩壊後、こうした終身雇用の雇用慣行は大きく後退し、代わりに膨大な数の非正規労働者が登場した。また、土建国家型の政治に国民の非難が集まり、公共事業費も削減された。日本の雇用状況は大きく変わり、福祉の肩代わりをしている余裕は失われた。

「雇用」が崩れた以上、生活保障のもう一方の砦である「福祉」が出てこなければならない。しかし、日本の福祉政策はそうした期待に応えるどころか、財政難を理由に福祉制度自体が切り詰めの対象となっている。そもそも、雇用制度の解体によって剥き出しのままリスクにさらされる若年層をケアする「人生前半の福祉制度」が、日本には無いに等しい。

したがって、現在の日本では雇用と福祉の両方が不安定な状態にあり、生活保障制度は危機的な状態に陥っている。そのような現状を描いたうえで、著者が示す処方箋は、これまで会社単位・業界単位で仕切られ、雇用内部で維持されてきた生活保障を、横断的・総合的に再構成し、雇用と福祉をつなげることによるアプローチである。福祉の目的を人々の就労や社会参加に置き、これを福祉的給付の条件とする「アクティベーション」がそれだ。具体的には「労働市場への参加支援」「働く見返り強化」「持続可能な雇用創出」「雇用労働の時間短縮・一時休職」を4つの柱とし、雇用と労働をめぐるそれぞれの局面に、福祉政策をリンクさせていくのである。

このプランは当然、日本の雇用慣行自体を大きく見直すことが条件となる。会社・業界ごとのタテワリ的な「囲い込み」から流動性の高い労働市場に移行し、そこに多種多様な雇用・福祉施策が組み合わさっていくのだから。福祉の担い手として、NPO社会的企業などの育成も欠かせない。実現させるにはよほど強固な国民的合意と、政治の強力なリーダーシップが必要となる。しかし、このプランが面白いのは、実現すれば単に社会保障が充実するというだけでなく、企業自身を活性化させ、経済成長にも結び付けることができる、という点だろう。思えば、国の経済の発展こそが、究極的な「生活保障」となるのかもしれない。その意味で、この提案は、生活保障を通じた日本社会そのものの再生の処方箋となっているといえるだろう。