自治体職員の読書ノート

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【903冊目】ガブリエル・ガルシア=マルケス『悪い時』

悪い時 他9篇

悪い時 他9篇

「ガルシア=マルケス全小説」第2巻。中編(もしくは長編)「悪い時」と、短編「大佐に手紙は来ない」「火曜日の昼寝」「最近のある日」「この村に泥棒はいない」「バルタサルの素敵な午後」「失われた時の海」「モンティエルの未亡人」「造花のバラ」「ママ・グランデの葬儀」を収める。

『ヤノマミ』を読んで感じた「南米感覚」を確かめるつもりで読んだ一冊だが、本書の半分を占める「悪い時」にやや難渋した。ある架空の町を舞台とした群像劇ふうの作品であって、筋書きがなかなか見えてこない。『百年の孤独』のような年代記風でもなく、『族長の秋』のように特定の人物にフォーカスが当たっているわけでもない。そもそも、その町で何が起きているのか、実際のところがつかめない。町の誰かしらを対象にした誹謗中傷ビラを誰が貼っているのか、ということがひとつあるのはわかるが、そのことと、その周辺にあるいろんなモチーフがいまひとつ絡んでこない。

というか、そういう「意味」や「ストーリー」を探して読む、という読み方そのものが、ズレているのかもしれない。それこそ「バナナが株のまま腐る」ような、ゆだるような暑さと湿度を前提に、朦朧とした頭でハンモックに横になりながら読むようなつもりで読むのがよさそうだ。緻密で深刻なロシア文学やドイツ文学とは違うのだ。むしろ、次々とやってくる濃厚なイメージの群れを頭の中に通過させつつ、その爛熟した舌ざわりを愉しむように読み進めるのである。そういうふうに小説を読む「味蕾」を自分の読書感覚にしていくことが、あるいはこの種の文学を味わうのにはよいのかもしれない。

もっとも、それを割り引いても「悪い時」はやや冗長に感じた。むしろ本書の前半に置かれた短編に、印象深いものが多かった。冒頭の「大佐に手紙は来ない」は、手持ちの軍鶏が闘鶏で勝つことと、来るはずのない手紙が金を運んでくることを期待しつつ、貧困のどん底にいる「大佐」が忘れがたい。「失われた時の海」は、死体がたくさん浮かぶ海の描写が異様な印象を残す。「ママ・グランデの葬儀」は、『百年の孤独』の太母ウルスラを思わせる「偉大な老母」の死を描くもので、このモチーフはあきらかに後の作品につながっている。