自治体職員の読書ノート

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【888冊目】オルトゥタイ『ハンガリー民話集』

ハンガリー民話集 (岩波文庫)

ハンガリー民話集 (岩波文庫)

ワケあって、今月から来月にかけて、ハンガリー関連の本を少し読んでいく予定。この本はその1冊目。とおりいっぺんの概説書やガイドブックより、こういうフォークロアから入っていく方が、その文化のエッセンスが感じ取れると思うので、最初にこの本にした。とはいっても、読んですぐ何かが分かる、というものではないだろうが。むしろこれからいろんな本を読んでいくなかで、本書に描かれたハンガリーの民話世界が、通奏低音のように鳴ってくれることを期待したい。

本書はタイトル通り、ハンガリーに伝わる民話を集めた一冊。収められた43篇の編纂にあたったのはハンガリー民俗学者オルトゥタイで、巻末には、そのオルトゥタイによる稠密な「ハンガリーの民話」という小論がついており、ハンガリーにおける民話研究史を概観することができる。日本でいえば柳田國男が『遠野物語』で行ったような、聴き取りによる地道な民話収集と、そこからの「正史に記されることのない」庶民の生活と思想を探ることにより、自身の文化を再認識しようとする行為が、ハンガリーでも脈々と行われていたことがよくわかる。特にハンガリーは、西洋文化圏の中にあって独特の東洋的要素をもった文化を有すること、オスマン・トルコやハプスブルク家などの巨大勢力に翻弄され、抑圧された(その後も東欧の一国としてソ連の支配下にあったことはご存知のとおり)歴史をもっており、それだけに民族のアイデンティティのよりどころとして、こうした民話が果たしてきた役割は小さくないと思われる。

内容は、西洋人からみたら東洋的と思われるかもしれないが、われわれから見ればやはり西洋的なモチーフがふんだんに登場する。それも、呪いやまじない、変身など、シャーマニスティックな要素がずいぶんと目立つ。また、民話の定番である「繰り返し」もしっかりと効いており、特に「3つ」の繰り返しが多い。これは日本の昔話でもグリムの民話でも何でも、ふしぎと共通している。たとえば日本では「3枚のおふだ」や桃太郎の「3匹の子分」、西洋では「3匹の子豚」や「3匹のやぎとがらがらどん」のようなものがすぐ思い浮かぶが…。特に、1回目と2回目が単純反復で、3回目に逆転が起きるというパターンがものすごく多い。これって、なんなのだろうか。

それ以外にも、個々の民話は、ハンガリーの独自性というよりは他国のものとの共通性を感じさせるものが多いが、食べ物や生活習慣、ささいなしぐさやものの考え方など、ちょっとしたところで独特の「ハンガリーっぽさ」が匂ってくる。ハッピーエンドが「大金持ちになる」ではなく「王様になる」「王女様と結婚する」というパターンが多いのは、日本に前者が多い(日本では「殿様になる」のがハッピーエンド、というものはあまり思い当たらない)のに比べると面白いかもしれない。また、ちょっと気になったのが、何回か登場する「鳥(アヒルや七面鳥など)の脚の上で回転するお城」という、なんだかよくわからないモチーフ。完全にハンガリー独自というわけではなさそうなのだが、さて、いったいどういうイメージなのだろうか。