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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【886冊目】柳広司『ダブル・ジョーカー』

ダブル・ジョーカー

ダブル・ジョーカー

日本陸軍に、秘密裏につくられた諜報機関「D機関」をめぐる短編集第2弾。

第1弾に続き、太平洋戦争前夜の日本や世界を舞台に繰り広げられる虚々実々の駆け引きがエキサイティング。特に本書は、D機関の「敵側」に視点を置いたものが多く、スパイ物特有の「正体探し」「陰謀探し」がおもしろい。

『ダブル・ジョーカー』『蠅の王』『仏印作戦』『柩』『ブラックバード』の5篇が収められている。仕掛けられているトリック自体は、後から考えてみるとそれほどたいしたことはない。にも関わらず読んでいると止まらなくなるのは、謎を暗示して徐々に明らかにしていく著者のテクニックの力だろう。また、戦争前夜の陰鬱で緊張感のある世界観が、スパイ物にぴったり合っているというのもある。何より、この時代を「エンターテインメント」としてここまで書ける作家は貴重。戦争体験のある著者であればもっと重苦しく深刻な内容になるところを、実に軽やかに書き綴り、しかしその中で当時の日本軍の問題点や時代背景などはきっちりとリアルに描きこまれている。

前作に続き安定感のある日本版エスピオナージュ。気になるとすれば、D機関があまりに「無敵」すぎること、トランプでいえばまさしく「ジョーカー」のオールマイティさをもってしまっていることか。できれば3作目は、この設定で長編を書いてほしい。