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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【877冊目】リチャード・ブース『本の国の王様』

読む・書く・話す 地域・公共・共同体

本の国の王様

本の国の王様

誰のコトバか忘れたが、まちづくりに必要なのは「若者」「余所者」「馬鹿者」だそうである。本書の主役リチャード・ブースは、この3要素をほぼ完璧に満たす「逸材」だった。彼がヘイ・オン・ワイの旧消防署を購入したのは24歳の時であり(もっとも、本格的に活動を開始したのは30歳くらい。いずれにせよ、「若者」「余所者」の2条件は満たされる)、「馬鹿者」については、決して頭は悪くないが、理想に向かって猛進するという意味ではぴったりあてはまる。ブースの理想とはなんと、「誰も本なんか読まない」と言われたウェールズの田舎町ヘイ・オン・ワイを、世界に名の轟く「古書の町」に変えることであった。本書は、ブースの書籍一筋のユニークきわまりない半生を自ら綴った自伝である。

ヘイ・オン・ワイに居を定めたブースが、世界中から本という本を買い集め、新たに購入した古城の一角に古書店をオープンしたのが最初だった。やがて食糧倉庫を買い取って2店目を開いたブースは、引き続き古書業界の魑魅魍魎のなかをかいくぐるようにして膨大な量の古書をこの町に集結させ、やがて古い映画館を改造した「シネマ書店」をオープンさせた。ヘイ・オン・ワイは古書の町としてだんだん有名になっていったが、それを利用した観光のあり方について、ウェールズの観光局とブースの間には大きな意見の食い違いが生じてくる。さて、ここが正念場。フツーならそれでもなんとか「大人の関係」を保ってお互いさまでやっていくのだろうが、ブースは違った。なんとみずからが「リチャード書籍王」となり、ヘイ王国の独立宣言をかましたのだ。

まるで井上ひさしの小説みたいな展開だが、レッキとした実話である。新閣僚の多くはトラック運転手で、組閣はヘイ・オン・ワイのパブでわずか5分のうちに完了した。「これは真面目にやってるんですか?」と記者に聞かれた時のブースのコメントは傑作だ。「もちろん違います。しかし本物の政治よりはずっと真面目です」

もちろん、ブースの活動が順風満帆だったわけはない。むしろとんでもないトラブルと紆余曲折の連続で、これを乗り切れたのはブースのけた外れの熱意とエネルギーに加え、相当の幸運があったというしかない。独立宣言は外部のみならずヘイ・オン・ワイ内部からも非難され、モレリというとんでもないライバルまで現れる。ところが、事態は思いもかけない方向に展開する。なんとフランスやオランダなどに新たな「古書の町」が続々と生まれ、ブースやその仲間たちは、「元祖・古書の町」を築き上げたお手本として招かれるようになったのだ。やがてブースは、多くの「古書の町」の最上位に位置する「皇帝」を名乗る。悪ノリと言えば悪ノリだが、これくらいの図々しさとユーモアがないと、これほどの「町おこし」はできないだろう。そのやり方がすべてお手本になるわけではないが、その熱意とエネルギー(そしてイギリス流のユーモアセンス)には、学ぶべき点が多い。何より、町おこしのツールが「本」だなんて、本好きとしてはうれしい話じゃありませんか。