自治体職員の読書ノート

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【816冊目】金子郁容・玉村雅敏・宮垣元編著『コミュニティ科学』

コミュニティ科学―技術と社会のイノベーション

コミュニティ科学―技術と社会のイノベーション

ドラッカーは「コミュニティはbe(あるもの)で、組織はdo(するもの)だ」と言ったという。確かに会社や官庁などの組織は一定のミッションに向けて活動するのに対し、地域コミュニティの多くは自然に存在し、特に何かミッションをもつわけではない。むしろコミュニティは、その喪失が嘆かれるような、一種のノスタルジアをかきたてるような存在だった。

ところが本書は、コミュニティに「do」の役割をも与えようとしている。その理由は、コミュニティが社会問題の解決に一定の役割を果たしうることがわかってきたから。もともと、社会問題の多くは、政府による解決(ガバメント・ソリューション)か、市場による解決(マーケット・ソリューション)がなされてきた。しかし、社会が複雑化し、問題が複合化するにつれて、この両者に加えてコミュニティが「問題解決者」としての役割を担うようになってきたのだ。

こうした「コミュニティ・ソリューション」の期待に応えうるコミュニティを作るためには、そのための基盤整備を行わなければならない。本書ではそれを「コミュニティ社会基盤」と称し、その確立のためのプロセスを詳細に解説している。重要なのは、その中でソーシャル・キャピタルを醸成すること。ソーシャル・キャピタルに関する本は以前にも何冊か読み、ここにも感想を書いたが、要するに人々の信頼関係と互酬性に基づく一種の「見えない資産」をいう。

以前にもこうした指摘は少なからず行われてきた。本書が目新しいと思われるのは、それを「科学」として、明確な方法論を提示するというスタンスで展開している点。それは言い換えれば、「誰でもできる」ひろく応用可能なメソッドであることを意味する。たとえば、東京都奥多摩町で行われた遠隔予防医療の例。これは、テレビ電話とインターネットを利用して、山間部の住民と都心部の医師をつなぎ、画面越しの診察を可能にした社会実験なのだが、これが非常に面白い。なんと対面での診察と比べて、利用者の満足度が高かったばかりか、生活習慣改善の度合いや血液検査の結果の改善度合いも、テレビ電話越しのほうが高かったのである。

実はこれには仕掛けがあって、住民側は自宅からではなく各地区の「生活館」(公民館)に集まってそこで診療を受けたことから、その内容について参加者同士で話し合い、場所によっては健康づくりのための「食事会」まで行われた。つまり、診療の結果を一人で聞くだけではなく、同じような仲間と情報交換し、時には励まし合ったり刺激し合うという関係が作られていたのである。それ以外にも、病院で長時間待たされることによる負担がないこと、対面診療だと案外医者はカルテなどを見てばかりで患者と目を合わせないものだが、画面越しだとかえってアイコンタクトがとれる(本書ではこれを「額縁効果」と呼ぶ)などのメリットがあり、これらが結果改善に貢献したという点も見逃せない。

この例でひとつ分かるのは、本書でいう「コミュニティ」とは、別にリアルのコミュニティだけではなく、ネット上のコミュニティも含めるということだ。むしろ、リアルのコミュニティとネット上のコミュニティを複合的・重層的に組み合わせることで、両者のデメリットを相互補完することが大事なのだという。本書に展開されているのは、間違いなく近未来の、高度な電子技術とリアルなコミュニケーションがハイブリッドされた次世代コミュニティの姿であろう。自治体もまた、こうした流れのど真ん中にいる存在である以上、知らないではすまされない。