自治体職員の読書ノート

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【815冊目】歌野晶午『ハッピーエンドにさよならを』

ハッピーエンドにさよならを

ハッピーエンドにさよならを

『おねえちゃん』『サクラチル』『天国の兄に一筆啓上』『消された15番』『死面』『防疫』『玉川上死』『殺人休暇』『永遠の契り』『In the lap of the mother』『尊厳、死』の11篇が収められた短編集。表題どおり、ハッピーエンドがひとつもない。もっとも、ハッピーエンドになりそうだったのがひっくり返される、という作品も、実はない。淡々と話が進み、ブラックなどんでん返しがつく、といった類の短編ばかり。そういうものだと思って読めば、まあそれなりに楽しめる。

以前読んだ『葉桜の季節に・・・』で驚かされた作者の腕前は、本書でも十分楽しめる。その種の意外性ということで面白かったのは『お姉ちゃん』『サクラチル』『尊厳、死』あたりか。逆に「すべった」ように感じたのは、『消された15番』『防疫』『殺人休暇』あたり。こちらはむしろ、無理にオチをつけようとしているような印象を受けた。かといって人間描写も中途半端。それくらいなら、むしろ人間の狂気や異常性をもっと深く深く彫りこんでいったほうがよろしかったのでは。「母の狂気」「教育ママの虐待」「ストーカー」と、中途半端な添え物で扱うにはもったいないネタばかりではないか。

いや、むしろ人物などステレオタイプな書き割りに徹してしまい、トリックの切れ味に徹底的に焦点をあてて絞り込むのもよいかもしれない。『天国の兄に一筆啓上』など、そういう方向性が出ていて面白い。阿刀田高あたりの「奇妙な味」系ブラックユーモア短編の現代版、とでもいうべきか。いずれにせよ、筋の運び方や描写の技術など、ストーリーテリングはものすごくうまい作家なので、今後どういう方向に進んでいくか楽しみである。なんだか今を時めく流行作家に向けて、新人賞の選評みたいなことを書いてしまったが、まあ、これが正直な感想ということで。