自治体職員の読書ノート

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【811冊目】コーマック・マッカーシー『すべての美しい馬』

すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

すべての美しい馬 (ハヤカワepi文庫)

祖父が死に、牧場が他人の手に渡ることになり、16歳のジョン・グレイディ・コールは親友ロリンズとともにメキシコへ向かう。途中で知り合った年下の同道者。牧場での束の間の仕事と恋愛、一転して刑務所に叩き込まれ、そこではすさまじい暴力が吹き荒れる。その波乱の旅路を描いた小説。

まず驚くのが、独特な文体。会話にカギカッコがついておらず、地の文と「地続き」になっている。文章はほとんど読点がなく、しかも一文が長い。最初は読みづらいのだが、慣れてくると独特な濃密さがあって離れがたくなる。村上龍の文章にどことなく似ているが、もっと叙情的で、五感に強烈に訴えてくる。

湯気を立てている馬の息遣いと汗の匂い。ブーツの底にたまった血の感覚。メキシコの灼熱の太陽と砂ぼこりの舞う大地。どれもが単なる二次元的な光景というだけでなく、ざらついた皮膚感覚を伴って異様な迫力で迫ってくる。どこまでが原文でどこからが翻訳の功績かわからないが、うまい。リアリティ、という言葉すら薄っぺらく思える文章だ。

物語もなかなか一筋縄ではいかない。青春小説だとか、少年が「自分を探す」物語だとか、いろいろ評されているらしいが、どうもこの小説はそういう「生易しい」ところにはとどまっていないように思える。それよりもっと深く本質的な、人生と世界の「手触り」のようなものが、本書の中には感じられる。

実を言うと、本書の主人公が16歳だとは、読んでいてどうしても思えなかった。少年というには、このジョン・グレイティ・コールは人生を知り過ぎているし、サバイバル能力がありすぎるし、したたかで心根が強すぎる。それとも、アメリカの16歳はみんな、こんなに大人びているのだろうか?