自治体職員の読書ノート

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【810冊目】吉田孝『日本の誕生』

日本の誕生 (岩波新書)

日本の誕生 (岩波新書)

以前、網野善彦『日本とは何か』を読み、「日本」という国号の成り立ちを初めて意識した。「日本」という名称が「中国中心主義」の裏返しであるという指摘にはずいぶんびっくりした覚えがある。本書はそのあたりを含め、そもそもの「日本」の成立を詳細に記した一冊。網野氏の本がいわゆるナショナリズムに対してかなり攻撃的であったのに対して、本書は冷静な姿勢を保ちつつ、歴史学の立場から淡々と綴られている。個人的には、この種の本があまりアグレッシヴだと読むのに疲れるので、これくらいの「温度」がちょうどよい。

さて、最初に「日本」という国号が使われたのは、対外的には701年の遣唐使。国内では少なくとも674年以降とされている(689年の「飛鳥浄御原令」で制定された可能性が示唆されている)。いわゆる大宝律令が701年であるから、やや誤差はあるにせよ、日本の行政・司法システムの完成点と国号の制定が、ほぼ重なり合っている。おおげさにいえば、日本という国家はここからスタートしたことになる。それまでは「倭」という名称がつかわれていた。

当時の日本を考える上で欠かせないのが当時の東アジア情勢である。中国(隋・唐)は冊封体制を敷き、周辺諸国とは形式的な君臣関係をむすんで服属を求めるかわりに、その国の王権を支えていた。面白いのは、日本自体は隋・唐時代を通じて中国の冊封体制の外側にいたという点である。むしろ倭国−日本は、中国から大きな影響を受けつつも、強い独立意識と対抗意識があったようだ。中国の「皇帝」に対して「天皇」号を称したのも、あるいはそうした対抗意識のなせる業であったかもしれない。

また、朝鮮半島の諸国との関係も見逃せない。特に、百済に加勢して敗戦を喫した有名な白村江の戦いは、国防体制や国家体制に真剣に取り組むための大きなきっかけになっており、国際的なダイナミズムの中で日本という国家が出来上がっていく様子がよくわかる。また、当時いわゆる「渡来人」として日本にやってきた朝鮮半島の人々が日本に伝えたさまざまな技術や文化も、その後の日本の基礎になっていった。

本書は、古代日本の成り立ちからその国家システムの完成までを非常にバランスよくまとめてあり、政治・社会面のみならず文化面に至るまでフォローされている。しかも非常に読みやすくわかりやすい。古代日本史を一望するには最適の一冊だと思う。