自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【809冊目】駒崎弘樹『働き方革命』

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法 (ちくま新書)

著者自らの体験から、「働く」ことを徹底的に考え直した本。

かつて典型的な長時間ワーカーであった著者が、アメリカでのある出会いをきっかけに人生の意味について考え、自分の働き方を見直していくプロセスを語る。かなり「クサイ」ところもあるが、会社での仕事だけが「働く」ことではない、と気づくあたりからどんどん加速し、自分の体験を出発点として、芋づる式に社会の問題点、日本の問題点が暴かれていくあたりが見どころ。

そもそも「長時間労働」は日本のボトルネックである。晩婚化。家庭の崩壊や形骸化。少子化の加速。地域コミュニティの崩壊。精神疾患の増加。いろんな問題がここに端を発しており、しかも解決が難しい。高度成長期以来の企業文化があり、長く働くことがよく働くことだという信念の持ち主もいまだに多い。人件費を削るため人減らしをする企業も多く、必然的に一人ひとりの負担は増える。共同体的な職場状況も、「一人だけ早く帰る」ことを難しくしている。さらに個人個人の仕事のやり方もある。目先の仕事に追われ、抱え込み、追い詰められてパンクする。あるいは、「バリバリ仕事をやっているおれ」に自己陶酔する。周囲との競争の中で、余計に働かないと置いて行かれるという恐怖感がある。状況はいろいろだ。

だいたい、「ワークライフバランス」を訴える当の役人が、長時間労働の「常習犯」だ。いくら口先でスローガンを唱えても、それがおためごかしのお役所仕事だとみんなわかっている。本書はその点、著者自身の体験を踏まえて書かれており、実感という裏付けがしっかりとあるものになっている。

確かに著者の立場はやや特殊である。会社の経営者であり、長時間労働の要因のひとつである「会社の体質」を自ら変えることができる。実際、著者はまず自らが早く帰ることを始めて、それを社員に広めている。一般の会社員だと、まずこうはいかない。裏を返せば、会社のマネジメントのレベルで長時間労働を抑制していかないと、単に個人のレベルだけで「6時帰り」は難しい。しかし、それらを割り引いても、本書は「長時間労働を少しでも減らす」ためのノウハウ、長時間労働の無意味さへの警鐘がたっぷり詰まっている。「メールチェック中毒」「インプット不全症」「エンターテイメント忌避症」「コミュニケーション逃避症」「常時不機嫌症」「表情喪失症」「ネットワーク断絶症」……いずれも、著者自身がかかっていた「長時間労働病」の症状だ。思い当たる節はないだろうか。

もっとも、本書が提唱するのは、単に「効率化で働く時間を減らしましょう」ということだけではない。むしろメインはその後。「働く」ことをもっと多様にとらえ、複数の「働く」が重層的に重なり合ったものとして自分の人生をとらえる見方を本書は提唱する。それが「働き方革命」、ということになる。職場での「働く」以外にも、家庭での「働く」、地域での「働く」など、お金をもらう仕事以外にも「働く」をどんどん広げて考えるのだ。

そうすると「ワーク・ライフ・バランス」ということば自体が、よい意味で空文化する。「ライフ」つまり人生を構成するすべては「ワーク」なのだ。仕事とプライベートを分けるのではなく、すべてがある面から見れば「仕事」なのだ。ポイントは、働くを「傍」を「楽」にする、と捉えること。そうすれば、皿洗いでも地域のイベントの手伝いでも、何でも「ワーク」になってくる。会社だけに「仕事」を限定する生き方が、ずいぶん貧しく格好悪いものに見えてくる。

そうはいっても問題は、「長時間労働者」の特徴のひとつは「本を読まない」こと。だから本書を手に取る可能性もきわめて低いのだが……それでも、危機感を感じられる人が、藁をつかむように本書を読むことはあるかもしれない。そして、本書はつかむに足る「藁」だ、と思う。