自治体職員の読書ノート

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【794・795冊目】梨木香歩『家守綺譚』『西の魔女が死んだ』

家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

『家守綺譚』の舞台は百年前。ひょんなことから亡友の父に家の管理を任された「私」は、漱石の登場人物を思わせる高等遊民的男性。ところが、その「庭付き・池付き」の家は、豊かな自然の折々に河童や子鬼が顔を出すところだった……。

庭に植わったサルスベリは主人公に恋をする。亡くなったはずの友人が掛け軸の奥から現れる。そこから少し離れて山の中に入ろうものなら、狐や狸に化かされる……。次々起こる奇妙なできごとに、「私」は驚くものの自然に慣れ、そういうものとしてふんわりと受け止める。その淡々がおもしろい。「庭」という限られたトポスの中に、いろんなものごとが凝縮して起こっていくという箱庭的なところが、なんとも日本っぽい。不思議が不思議でなくなる、人間と自然がゆったりと交流する、その「つなぎ目」のなめらかさが心地よい。連作短編形式だが、ひとつひとつがとても短くて印象的で、小説というには漠然とし過ぎている感もある。

西の魔女が死んだ』は、それに比べると「物語」としての結構がしっかりできている。まずタイトルが素晴らしい。暗示的で、幻惑的で、このタイトルから物語の糸がするすると伸びていくような、そんな表題だ。「西」という漠然とした方位、「魔女」といういわくありげなイメージ、「死んだ」という物語性の暗示。このタイトルだけで、すでにこの小説は成功している。

内容もその期待をまったく裏切らない。こちらにも「庭」は登場するが、こっちはむしろ「ガーデン」とでも呼びたくなるような西洋風味。サルスベリや白木蓮やカラスウリではなく、レタスやハーブのテイストである。だいたい、主人公である「まり」の祖母が英国人の「魔女」であるというのだから、こちらはずいぶんとまた日本離れした題材を選んだものだ。しかし、その西洋庭園的な趣向が、まりの思春期の微妙な心理とうまく絡み合って、これはこれで味わい深い。それに、こちらも自然と人間の境界はずいぶん曖昧で、土や草の匂いがただよう世界になっている。

和と洋、短編と長編、厭世的な高等遊民とナイーヴな女子中学生。極端に対照的な2冊だったが、共通するのは自然への思いの深さと、それを描く文章のこまやかさ。どこかすっとぼけているようで、肝心のところはぴしりと押さえる、そんなメリハリが気持ち良い。特に「魔女」のおばあさんの言動は、性別は違えども、ああ、こういうお年寄りになりたいものだ、としみじみ思わせられた。