自治体職員の読書ノート

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【793冊目】チェ・ゲバラ『ゲリラ戦争』

新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術 (中公文庫)

新訳 ゲリラ戦争―キューバ革命軍の戦略・戦術 (中公文庫)

男も惚れるカッコよさ。こんな革命家はもういない。

チェ・ゲバラキューバ革命でゲリラ軍を指揮して勝利を導き、国立銀行総裁に就任。しかしその後、政治から退いてふたたびゲリラ戦争のただ中に身を投じ、ボリビアで射殺された。本書はゲバラが得意としたゲリラ戦争のノウハウをまとめたものであって、ゲバラ自身の人生を綴ったものではない。それでも、その行間から漂う毅然とした姿勢、揺らぐことのない理想と冷徹なほどの現実主義は、それだけでこの男が半端じゃない「本物」であることを伝えてくる。

ゲバラは、ゲリラとテロリストを明確に区別する。大義のためなら一般人を巻き込むことを辞さないテロリストとは違い、ゲリラはむしろ一般人民を味方につけ、その支持のもと行動する。いや、正確には、ゲリラ戦士とは「抑圧者に対する人民の怒りと抗議を具体的に表現すべく武装した社会変革者」なのだ。したがって、ゲリラは一般人民には最大限の敬意と配慮をもって接し、その協力を仰ぐことはあっても、これを搾取したり、収奪したり、ましてや戦闘の巻き添えにするなどもってのほかなのである。

一方、ゲリラの内部にあっては鉄の規律が支配する。食糧は階級の上下にかかわらず平等に配り、誰もがその能力に見合った役割を与えられ、必要とあらば何日にもわたり沈黙のまま行進を続ける。リーダーにはそれに見合った高い能力や強い意志の持ち主が就くべきであり、身分や年齢だけで高い階級を得ることは許されない。

本書に述べられている「ゲリラのルール」はマクロな戦略立案の面から具体的な戦闘面、行軍面、補給面など多岐にわたり、しかもきわめて詳細かつ具体的で、ゲバラ自身の豊富な経験が養分としてたっぷりと含まれている。その内容はおそろしく合理的で、勝利と革命の遂行という最終目標にすべての行動が向けられている。その徹底は読んでいて小気味よいほどであり、通常の組織であれば多かれ少なかれみられるような「息抜き」や「ゆるみ」といったものが微塵もみられない。だが、それでいて機械的という印象はあまり受けない。それは、おそらくゲバラ自身の、そしてゲリラ戦士の、社会変革に向けた熱い「想い」がその行間に煮えたぎっているからではないかと思われる。

この本からはいろいろなことを知ることができる。ひとつの目標遂行のみにすべてが向けられた無駄のない組織とはどういうものか。理想と規律の合間に置かれた人間が何をすべきか。一見小さな細部と思われること(たとえば弾薬の補給や靴の修理など)が全体にどれほど大きな影響をもつか。しかし、個々の知識は使わなければ忘れてしまう。本書が最終的に読み手の心に刻印するのは、ゲバラという稀有の「男」の熱風のような魅力そのものではないだろうか。