自治体職員の読書ノート

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【790冊目】ダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』

夜更けのエントロピー (奇想コレクション)

夜更けのエントロピー (奇想コレクション)

すでに発表されているダン・シモンズの短編をピックアップ・セレクトした一冊。河出書房新社の『奇想コレクション』シリーズの第1巻にふさわしい、「奇想」100%の1冊となっている。

デビュー作『黄泉の川が逆流する』にはじまり、『ベトナムランド優待券』『ドラキュラの子供たち』『夜更けのエントロピー』『ケリー・ダールを探して』『最後のクラス写真』『バンコクに死す』と、いずれも「想像を絶する」異形の作品がずらりと並ぶ。

奇想という点で圧巻は『最後のクラス写真』。生徒がすべてゾンビの教室という時点で発想がすでにぶっとんでいるのだが、おそるべきは、この設定を一篇の小説として「読ませ」、最後にはほろりとさせてしまうダン・シモンズの筆力である。

だいたいデビュー作の『黄泉の川が逆流する』自体、死んだ母が「復活」し、ゾンビ状態で家に戻ってくるというとんでもない設定から始まるのだが、その異様さを息子たちの視点で描きだすことで、家族の情愛や少年の心のひだをしっかりと小説に織り込んでいる。『ベトナムランド優待券』も戦争体験ツアーという発想にベトナム戦争をめぐる社会問題や戦争に遭遇した人間の悲劇と痛切をからめて印象深い一篇に仕立て上げているし、チャウシェスク後のルーマニアドラキュラ伝説と重ねて書いた『ドラキュラの子供たち』も、いわゆる「チャウシェスクの子供たち」をめぐる悲惨な状況をしっかりと小説の芯に埋め込んでいる。

奇想コレクションのために選び抜かれた短編ゆえか、他の作品もいずれ劣らぬ傑作揃い(個人的な一押しは、父親の心情の危うさを絶妙の筆致で描いた『夜更けのエントロピー』、元教師と元教え子のサバイバル・マッチというやはり奇想の極み『ケリー・ダールを探して』、それに『最後のクラス写真』か)。

単なるホラーやSF、幻想といった面の裏側に、人々の感情のゆらぎや弱さ、さらには現実のリアルな社会問題(戦争、孤児、エイズ…)を潜ませる手際が、この作家は本当にうまい。ブラッドベリの幻想味とキングの筆力を併せ持った作家、という印象。脱帽。