自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

自治体職員がブログを書くということ

今読んでいる本にこんな記述がありました。


多くの市民は「専門家」をひとつのくくりとして考えている。学界の席ではともかく、その専門家同士が国民の前で科学論争をすることは、長期的に見て科学者の信頼を損なう行為だと吉川(※吉川肇子慶応義塾大学准教授・リスクコミュニケーション)は指摘する。私のいっていることは科学的に正しい、などと公開の場でそれぞれが勝手に発信すると、科学者同士が内輪で反目し合っているというネガティブな印象を与えて、将来的にきわめてマイナスになるというのである。行政の人間がブログなどで所属機関の問題を書き連ねる行為も同じだ。ふつうの企業で、うちの製品は欠陥品だなどと一社員が個人ブログに書くことはまず許されないだろう。(以上、瀬名秀明『インフルエンザ21世紀』P.282より引用。※印の注釈及び色の変更はhachiro86による)

このブログは原則として、何を語るにせよ「本」に言寄せし、「本」を通して申し述べるようにしてきました。しかし、それでも時々、いち自治体職員であるというおのれの立場を明らかにしたうえで自治体をめぐる発言をすることが、はたして適切なことなのかどうか、迷うことがあります。ましてや具体的な日々の行政実務に関することを書く場合は、なおさらです。

上記引用は、リスクコミュニケーションの専門家である吉川肇子氏の意見を紹介しつつ、著者の瀬名氏が書いているものです。テーマは危機管理なのですが、「ブログを書く行政の人間」にとっても重要な指摘を含んでいるように思えましたので、読中にもかかわらず、あえてここで取り上げておく次第です。

誰でも読めるブログやホームページという媒体に、組織に属する個人が、個人の名前で、あるいは匿名で意見を発表すること自体は、言論の自由の観点からすれば、とがめだてされるいわれはありません。しかし、行政全体の信頼性を維持するという観点からすると、よかれと思って主張している意見、正しいと信じて述べ立てている論理が、実は行政内部の不統一を衆目にさらし、結果としてマイナスの効果を生みだしている可能性も否定できないものがあります。

自治体職員の書くブログの多くは、自治体職員同士の情報交換や意見交換の場として設けられている場合が多く、記事の多くも「同業者」向けに書かれています。しかし、当然のことながら、「同業者」以外の方がご覧になる可能性は常に存在します。

ほとんどの方はそのことを意識して記事を書かれていると思いますが、時折、ぎょっとするほど率直な組織批判や内部批判をなさる方もおられます。確かに行政の内部には、矛盾や汚濁や悪弊が少なくありません。「大人の事情」でいろんなことが決まっていくこともあります。腹が立つこともあるでしょう。憤懣や道義に駆られて、それをネット上に書きつけたくなることもあるでしょう。しかし、キーをたたく前にぜひ一瞬立ち止まり、その記事を読む可能性のある人を、その広大な広がりを想像する余裕をもちたいものです。私も、「所属機関の問題」を書くことは(なるべく)しませんが、行政全般について書く場合も、読み手の広がりを思って躊躇する一瞬をもち、大切にしたいと感じます。

偉そうなことを、失礼いたしました。しかしこりゃ、クリスマスイヴに書く文章じゃないですね。