自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【780〜781冊目】アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ『黒い美術館』『燠火』

燠火―マンディアルグ短編集 (白水Uブックス)

燠火―マンディアルグ短編集 (白水Uブックス)

いずれも短編集。『黒い美術館』は同名の第一短編集(『仔羊の血』『ポムレー墓地』『ビアズレーの墓』)に『サビーヌ』『満潮』の2篇を加えたもの。一方、『燠火』には『燠火』『ロドギューヌ』『石の女』『曇った鏡』『裸婦と棺桶』『ダイヤモンド』『幼児性』の7篇が収められている。

いずれもエロティックで、幻想的で、頽廃的で・・・・・・と、いろいろに形容ができそうなのだが、しかしどんな形容詞をかぶせても、マンディアルグの小説はそこからするりと抜け出す何かをもっている。細部には異様なほど装飾が尽くされているのだが、核心には奇妙な霧のベールがかかり、その向こう側を覗き見ることはかなわない。そんなまだるっこしさというか、知的な迂遠さというか、そこがまた一種の奇妙な魅力となっている。無修正AVなどとは対極の「見えないものを見る淫猥さ」なのである。

われわれはおそらく、無意識のうちに善と悪を分け、美と醜を分け、光と闇を分け、聖と淫を分けている。しかし、マンディアルグの世界では悪と美と淫がどろどろに溶け合い、幻想の衣にくるまれつつ、これこそが真実だと告げる迫力をもっている。剃刀で両手首を切り裂き、血の海となった浴槽で追憶に浸る女性。可愛がっていたウサギを両親に「処理」された娘のひそやかな復讐。毛髪を織り込んだ異形の美食。棺桶に囲まれた美女の幻。宝石の中に閉じ込められ、獣頭の男に犯される処女。幻想の極致、イメージの極限、夢想の極北。闇と魔が演出する背徳の美。それを可能にする、おそるべき言葉の群れ。小説が可能なある種の悪魔性の極点。まあ、あとは読んでもらうしかない。