自治体職員の読書ノート

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【767冊目】トレヴェニアン『ワイオミングの惨劇』

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)

ワイオミングの惨劇 (新潮文庫)

舞台はワイオミング州にある小さな町「20マイル」。週に1回、近くの銀鉱から鉱夫たちが訪れるほかは、外界からほとんど孤立している。住んでいる15人はそれぞれ一癖ある連中。そこに不意に現れた、大きな旧式ショットガンを背負った若者。一方、州立刑務所では、凶悪極まりない男が脱獄を果たし、この町にやってこようとしていた……。

孤立した町(というより集落)。そこに逗留するよそ者。やってくるならず者たち。こう書けば、ピンと来る方も多いと思う。典型的な西部劇のパターンである。あるいは、黒沢明監督の「用心棒」や「七人の侍」あたりを思い出す方もおられよう。話はこのパターンをほとんど踏み外さないまま進行していく。ならず者は町でやりたい放題。よそ者はそいつと対決し、やっつける(保安官のバッジまでつけている)。しかしその後、町の人々は手を返したように冷たく、自分たちを救ってくれたよそ者にあたる……。もっとも、ラストは「去っていくよそ者」という定番のパターンとはちょっと違う。だが、終わり方としては、こちらの方がせつないかもしれない。

トレヴェニアンの小説を読んだのは初めてだったが、とにかくストーリーテリングが抜群にうまい。冒頭におかれた脱獄シーンによって、「20マイル」に溶け込んでいくマシューの描写の中にも、「奴らがいつ来るのか?」という緊張感がぴんと糸を張っている。そして、ならず者がやってきてからの息もつかせぬ目に見えない攻防。その結末はずいぶんあっさりしたものだが、その後のやや長めの「エンディング」で事件の「その後」が描かれ、物語に奥行きと立体性が与えられている。緩急自在の傑作エンターテインメント。ああ、おもしろかった。