自治体職員の読書ノート

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【764冊目】野口貴久美・幸田雅治編著『安全・安心の行政法学』

安全・安心の行政法学―「いざ」というとき「何が」できるか?

安全・安心の行政法学―「いざ」というとき「何が」できるか?

行政法に関する本はいろいろあるが、こういう切り口のものはめずらしい。だが、今の時代を考えるとずいぶんタイムリーな内容ではある。

「警察・防衛・国民保護」「災害対策」「技術革新」「感染症・公衆衛生」「乗り物」「消費生活」の6つのカテゴリごとに、関連する法制度を解説する本。いずれもメディアなどで頻出するテーマであり、近年、急速に法整備が進んだ分野でもある。そのわりにこれまで、こうした視点で横断的に法内容を眺めることはできなかった。その意味で、本書の存在はなかなか貴重。

「安全・安心」にかかわる法整備には、いろいろと難しい論点が多い。危険やリスクの考え方や捉え方、漠然とした「不安感」にどこまで法が対処すべきか、そして何より、法によって個人の自由を制約することが、安全・安心のためとはいえどこまで許されるか。特に最後の点については、危機を煽って国民の自由を制約するというのがファシズム独裁国家の常套手段であるだけに、慎重な検討が必要なところだと思うのだが、この点について、本書は「安全の中の自由」という概念を紹介する。国民の安全が確保されて初めて、自由もまた享受できるとする理論とのこと。もっとも、これだけで十分と言えるかどうかは別問題かと。

一方、技術革新に伴うリスクの増大(原子力安全、化学物質管理、遺伝子組換え)については、予防原則の考え方をもっと積極的に取り入れても良いのではないか。いずれにせよ、リスク管理の考え方と行政法学をどう組み合わせていくかという課題は、自治体の現場、とりわけ政策法務の分野で、今後ますます重要になると思われる。これに関連して、「安全・安心」に関する法制度に対する条例のあり方についても、いわゆる「上乗せ・横出し」問題にとどまらず、もっと突っ込んだ議論があってよいだろう。そもそも条例による上乗せ・横出しが議論になったきっかけは、いわゆる公害問題について、規制法整備が遅れる中にあって、都市自治体が待ったなしの対処を迫られたことであったはず。「安全・安心」は、条例自治の原点でもあるといえるのではないか。