自治体職員の読書ノート

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【752冊目】北野武『全思考』

全思考 (幻冬舎文庫)

全思考 (幻冬舎文庫)

北野武が、みずからの生い立ちから死について、価値観や考え方について、今の世の中について、映画について、真正面から率直に語った一冊。「生死の問題」「教育の問題」「関係の問題」「作法の問題」「映画の問題」の5章構成。

非常に面白く、北野武という人物の奥の深さ、ふところの深さがよくわかる。通読して思ったのは、この人はモノの本質というものが「見えすぎる」人なのではないか、ということ。あまりにも透徹して本質や実体が見えてしまうから、それをストレートに語ってしまうと言葉の歯切れが「良すぎて」しまい、つまり物事の真実をあまりに暴いてしまいすぎるから、それをお笑いやおちゃらかしや毒舌、あるいは映画や絵画などでくるんで提示せざるをえないのではないか。そんなふうに感じた。

驚いたのはトイレ掃除の話。汚れているトイレがあると、自分の家だろうが外の店だろうが掃除してしまうのだそうだ。もとになっているのはお母さんの「汚い場所は、いつも奇麗にしときなさい。不浄なものはいちばん気をつかわなきゃいけないんだから。奇麗なものは汚してもいい。だけど、汚いものは汚しちゃいけない」という教育らしいが、素晴らしい教育だ。そして、それをトイレの掃除として自然に実践する北野武が人間として本物だということが、このエピソードだけでしっかり伝わってくる。頭では分かっていても、外の店の汚れたトイレを自分で掃除するなんて、恥ずかしながら自分にはできないと思う。

他にも印象的なエピソードや言葉がたくさんあるのだが、どれも決して表面的ではなく、奥深いところでこちらの心に刺さってくる。自分自身を常に低い所におき、どんな下っ端の若手よりも周りに気を遣い、厳しいがとっても温かい。本当に、掛け値なしの、すごい人だ。

また、映画についてもたっぷり書かれており、北野武映画ファンとしても充実の一冊。中で一番印象に残ったのは、この言葉。

「自分が好きな映画を作ることと、自分の作った映画が好きなこととは違うのだ」

もちろんその内容については言葉を尽くして解説されているのだが、映画に限らず小説でも音楽でも、これが本質だろうと思う。箴言である。