自治体職員の読書ノート

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【742冊目】ジョーゼフ・キャンベル『時を超える神話』

時を超える神話 (キャンベル選集)

時を超える神話 (キャンベル選集)

神話学者ジョーゼフ・キャンベルの講演録『キャンベル選集』の第1冊。人類の起源にはじまり、世界中の神話を高速で概観しつつ、そこに潜む共通性を探る。アメリカ・インディアンやエジプトの神話から、東洋古来の仏教やヨーガ、さらには西欧のアーサー王伝説まで、非常に目配りの広い展開に加え、スライドを多様した視覚的効果、さらにわかりやすく多面的な語り口で、神話の世界の魅力を伝えるには申し分のない一冊となっている。

ここに取り上げられているのは世界の神話のうちほんの一部だが、その内容をみていると、「どこかで聞いたような話」が実に多い。それも、日本神話にみられるエピソードとよく似たものがエジプト神話で見られたり、アーサー王伝説とアメリカ・インディアンの説話が妙に似通っていたりと、とんでもなく離れた場所で共通する部分があったりする。一方の神話がもう一方に伝播した可能性もゼロではないがちょっと考えにくく、むしろ神話というものが、一定の共通性を本源的に持ちうるものだ、と解釈するほうが適切だろう。特に、古事記におけるイザナギの「冥界下り」とほとんど同じ話がエジプト神話にみられる(ちなみにギリシア神話にも同じような話があったように思う)のには驚かされた。

なお、個別の話として印象に残ったのは、まずナバホ・インディアンの素晴らしい砂絵。神話的な世界観をあらわした一種のマンダラなのだが、その豊かな象徴性! また、ニューヨーク近代美術館で砂絵の制作を行った時のエピソードが面白い。彼らは色砂を使ってあっという間に見事な砂絵をつくるのだが、その際に必ず一部を省略し、あえて不完全なものにしておくというのである。その理由は、砂絵を扱う人を砂絵の力から保護し、絵の力が発生しないようにするためなのだというのだ。「これを完全なものにすると、あすの朝、マンハッタンじゅうの女が妊娠してしまうよ」と、彼らは語ったそうである。

また、中盤ではクンダリーニ・ヨーガについてまるまる2章を割いて説明しているほか、仏教や「チベット死者の書」についてもたっぷり解説されており、神話とも思想ともつかない、東洋思想の源流がたいへんていねいに取り上げられている。特に「チャクラ」についての解説は、心身を一体のものとしてとらえ、さらに生命と世界の間断なきつながりをうかがわせるもので興味深い。

後半では、西洋思想の成り立ちを言語の面から考察するなかの一節が印象に残った。ラテン語からフランス語、古ドイツ語からドイツ語へと言語が進化するなかで、主語と動詞の分離が起こったというのだ。「私は愛する」を、ラテン語では"amo"と一語で言うが、ドイツ語では"ich liebe"なのである。このことと近代自我意識の発生を単純に関連づけることはできないだろうが、なかなか意味深なエピソードではないだろうか。