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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【738・739冊目】池谷伊佐夫『東京古書店グラフィティ』『書物の達人』

読む・書く・話す

東京古書店グラフィティ

東京古書店グラフィティ

書物の達人

書物の達人

これは危険な本である。禁断の世界への入口である。

古書の世界の奥深さについてはなんとなく漏れ聞いてはいたが、これまではつとめて「敬して遠ざける」スタンスを守ってきた。理由は言うまでもなく、一度はまりこんだら絶対に「ハマる」と思うからだ。いや、ハマる自信すらある。「読書」への興味にとどまっているうちはまだよいが、「書物」へと興味がスライドしたら手に負えなくなりそうだ。そして、両者を隔てる壁は、案外薄いような気がする。だからこそ、この手の本はこれまで、つとめて手にとってこなかった。

ところが、松岡正剛「千夜千冊」で『書物の達人』が取り上げられ、しかも実に魅力たっぷりの本に書かれていたので、ついむずむずと興味の虫が動いて手に取ってしまった。だから読んだのは『書物の達人』が先になる。ちなみに、これは文字通り、書物に造詣が深く、書物の世界に惑溺し、あるいは埋没し、あるいは主のようになった人々、名だたる読書家、蔵書家、本の虫、書痴、本狂い、さらには職業として本を扱う書肆(この言葉から、すでに何かが香ってくる)やその業界人などの書いた「本についての本」を片っ端から取り上げ、紹介するもの。いわば「本の本の本」である。

特徴的なのは、紹介されている本の多くが絶版で、古書店でしか手に入らない点。そのため、本の紹介では版元や出版年月、定価とともに、古書としての相場まで書かれている。そのため、紹介されている本から無数の本への世界が開けると同時に、本書そのものが、「本の本」を糸口とした広大無辺の古書の世界をめぐるものとなっている。「読書の達人」ではなく「書物の達人」なのがミソ。

『東京古書店グラフィティ』は、東京の主だった古書店を著者が実際に巡り歩き、その店内の様子をなんとすべてイラストにしたものである(ちなみに、著者の本業はイラストレーター)。店内を俯瞰し、書棚の配置から置かれている本のジャンル、主だった本やその価格まで詳細をきわめるイラストなのだが、驚くべきことに、なんと著者はこれを記憶と最小限のメモ書きだけでほとんど完成させたという。狭い店であれば10分ほどかけて店内の様子を頭に叩き込んで近くの喫茶店でスケッチを起こし、そうでない場合は、本を1、2冊買うついでにメモ(スケッチとは言わないそうだ)を取らせてくれるよう店主に頼む。それだけでこの緻密かつ分かりやすいイラストを描き出す著者の力量も、また相当なものである。

さらに、本書には古書の世界を垣間見せてくれる多数のエッセイが収められており、こちらもすごく面白い。冒頭に書いた「危険な本」というのは、特に本書のエッセイ部分を指している。何しろ一冊数万円は当たり前、稀覯本なら数十万から数百万の世界である。まあ、金のかかる趣味というのは、どれも似たようなものかもしれないが……。