自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【718冊目】ガブリエル・ゴオー『地質学の歴史』

地質学の歴史

地質学の歴史

地質学なんて、一見いかにも地味である。奇想天外で魔法のような宇宙論、ダイナミックで勢いのある生物学などと比べられてしまうと、どうしても分が悪い。高校の頃の「地学」の授業などで、やたらに岩石の名前や性質(花崗岩とか玄武岩とか)を覚えさせられたのを覚えている程度だ。

だが、実はとてつもなく奥深いのがこの分野だ。地球の成り立ちを知り、化石から生命の進化論を知り(進化論と地質学がとても近い存在だということは本書を読めばわかる)、プレートテクトニクスから地震のメカニズムを知る。だいたい、火山や地震が世界有数に集中しているわが日本で、これほど地質学のプレゼンスが低いことが、むしろ大問題である。日本こそ、本来なら地質学研究の最先端を走っているべきだ。

そんな地質学の歴史を概観したのがこの本である。見かけは非常にとっつきづらいが、内容は非常に読みやすく、かつおもしろい。アリストテレスの時代から続く「斉一説」と「激変説」のコントラストだけ押さえておけば、鬼に金棒。ちなみに「斉一説」は「水成説」とも呼ばれ、水中での堆積によって地形が造成されるというもの。その根っこには、世界を恒常的で永遠のものとみるアリストテレスの哲学がある。一方、「激変説」はストア学派がルーツで、世界を崩壊し、再生するものと考える。「火成説」でもあり、火山の爆発などによる土地の隆起が、地形を造成してきたと考える。

この両者の対立が地質学の内部に起こる一方、「外なる敵」として登場するのが教会だ。そもそも、世界や生物の成り立ちを探ろうとする地質学は、聖書の記述と抵触しかねない見解が出てきやすい。その「調和」を取ろうとして、地球の歴史を六千年とか八千年と決めてその枠内に論理的整合性をおさめようとしたり、生物の絶滅や新たな種の登場が化石から明らかに見いだせても、神が生物を「いっせいに」創ったとする創世記の記述を優先して学問的な見解を奥に引っ込めたり……。なかなか難しい問題である。

そういえば、小学生の頃、机の上にちいさな貝の化石が飾ってあった。誰にもらったのか、博物館にでも連れて行ってもらったときに買ってもらったのか覚えていないが(今考えるとホンモノかどうかもあやしい)、それでも、その姿を見て古代の世界に思いを寄せた頃のことは、よく覚えている。鉱物のきらめきにも、そういえば当時はずいぶん関心があった。恐竜にも興味があって、図鑑をしょっちゅう見ていたものだった。そうか、あの頃の感覚こそが、地質学につながる糸口だったのかもしれない。