自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【703冊目】田中弥生『NPO新時代』

NPO新時代

NPO新時代

NPO法制定後10年の節目に、NPOの現状と課題をまとめた本。

制度後10年という期間が長いのか短いのかよくわからないが、その間、NPOという存在がそれなりに社会の中で存在感を増してきているのは事実である。「官」が担うこともできず「市場原理」からもふるい落とされる、しかし確実に公的な必要性が存在するさまざまな現場で、NPOは「NPOにしかできない」役割を着々と担うようになってきている。

国や地方の制度もそれを後押しし、意地悪く言えば、NPOに「お任せ」しようとしているところがある。介護保険制度、指定管理者制度市場化テストなどなど、「民営化」「民間委託」の掛け声のもと、これまで官が担ってきた分野が次々とNPOに「開放」された。

しかし、一方で行政とNPOの間に横たわるへだたりや矛盾がいろいろと表面化してきているのも否めない。特に問題なのが、おカネにまつわる面である。適切なコスト設計ができず「安ければよい」となりがちな行政サイド、一方で採算ギリギリの事業でも応じざるを得ず、応じてしまうと、そのために雇った被用者のためにもそれを続けざるを得ない。結果として「受託事業」をこなすだけで精一杯、その中で「そもそもNPOを立ち上げた時の志」はどこかに見失ってしまう。

では、委託事業に頼らず自主運営を目指したとする。もともと採算が取れる事業のほうが少ないから、いきおい収入源は寄付に頼らざるを得ない。だが、寄付が十分に集まるNPOはほとんどない。NPO自身の情報開示も進んでおらず、寄付を求めるアクションも足りない。社会全体をみると一定の寄付金は流れているのだが、それがNPOのほうにやってこないのだ。

こうした問題点を指摘する一方、NPOの本来のミッションである事業展開のための問題解決技法も本書では紹介されている。NPO向けというスタンスだが、行政からみても実に役に立つメソッドである。特に、デビット・コーテンの「NGOの4つの世代とその戦略」は面白い。個人のその場限りの救済をターゲットとした「第1段階」から、共同体の変化を求める第2段階、制度的な変革を目指す第3段階と進み、究極の第4段階は、地球規模の視野で民衆を動かす力を持ったビジョンを提示する。福祉まちづくりなど、これも行政課題の解決にそのまま使えるフレームだ。

本書は文章がものすごく明晰で読みやすい。グラフや図表、具体例の挿入も過不足がなく、実にうまくできている。NPONPOとかかわりの深い行政セクションは必携の一冊である。