自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【640冊目】松岡正剛編集構成「NARASIA」

平城遷都1300年記念出版 NARASIA 日本と東アジアの潮流 これナラ本

平城遷都1300年記念出版 NARASIA 日本と東アジアの潮流 これナラ本

平城遷都1300年記念事業の一環としての出版なのだが、「奈良」に軸足を置きつつ日本や東アジア全体を通観するというスタンスで書かれており、奈良という地域にほとんど関係なく楽しめる本。

圧巻は第2章「日本と東アジアの1300年を見る」。平城遷都の710年から2009年までを、鎌倉幕府成立までの「律の世」、明治維新までの「風の世」、太平洋戦争終戦までの「力の世」、911までの「技の世」、そして現代までの「察の世」に分け、約200ページにわたり、見開き(ダブルページ)単位でその時代を辿っていくのだが、歴史教科書のような政治的・社会的な事件より、むしろその時代を彩った絵画や彫刻、文芸、あるいは人々の習俗などに光を当て、見開き単位で次々と視点を変えながら、総体として1300年の「歴史の流れ」を見事に浮かび上がらせている。

しかも貴重な写真や図版をふんだんに使ったフルカラー。まさに編集術の精華であり、編集の妙技を尽くしたアクロバティック・ショー。高校の日本史の教科書には、明日からこの本を使うべきである。

奈良という地域、日本という国家、東アジアという地域。この3つを高速で行き来しつつ、目の覚めるようなヘッドラインのもと、鮮やかにそれぞれの時代を切り取り、配置しなおし、そこから新たな「空間と歴史」の枠組みを浮かび上がらせていく。実はこの本、最初は買うつもりはなかったのだが、書店でパラパラ見ていたら、その鮮烈で強烈なつくりに一気に魅了されてしまった。このクオリティで1800円はお値打ち価格。歴史が苦手な人にこそお勧め。中国、朝鮮、日本のかかわりをどうとらえたらよいのか、迷っている人(私もそうである)にも勧めたい。