自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【613冊目】高橋裕『地球の水が危ない』【614冊目】モード・バーロウ&トニー・クラーク『「水」戦争の世紀』

地球の水が危ない (岩波新書)

地球の水が危ない (岩波新書)

「水」戦争の世紀 (集英社新書)

「水」戦争の世紀 (集英社新書)

「水の惑星」と呼ばれる地球上には14億立方キロメートルの水があるが、そのうち淡水は3600万平方キロメートル、全体の2.6%である。そのうち再生可能な水資源となりうる雨水は34000平方キロメートルとさらに少ない。地下水はその60倍あるが、そこからくみ上げた水を補うのは地表の水に比べてずっとむずかしい。さらに都市化の進展で地表がコンクリートに覆われ、雨水の保水力が極端に低下している。雨水は下水道に流れ込み、汚水と混じって川や海に流れ込むため、雨水の再利用性も低下している。

一方、20世紀に入ってから100年間で人類の水使用量は10倍以上。農業用水の比率が圧倒的に高いが、先進国を中心に工業用水や生活用水の比重も高まっている。それに伴って拡大しているのが水をめぐる先進国と途上国の格差である。人間生存に最低限必要といわれる水の量はひとり一日約50リットル。しかし世界中で55カ国がその水準を下回る。

さらに使用可能な水も多くは汚染されており、水不足と水汚染で年間400万人が死亡している。その過半はアジアとアフリカの乳幼児。12億人が安全な水を飲めず、30億人は屋内にトイレをもたない。一方、日本人は一日で平均して322リットル、純粋な家庭使用分だけでも200リットルを生活用水に使う。これはアメリカに次いで2番目に多い。

国連によると、2025年までに、世界人口は26億人の増加が見込まれ、これによって世界の水需要は有効水量を56%上回り、増加した26億人のうち2/3が深刻な水不足、そのうち1/3は水飢饉の生活を強いられるという。

こうした状況に拍車をかけているのが、「水」の商品化である。フランスでは水道事業の民営化によって水道料金が150%高騰した。途上国でも貧困層に対する水道料金の徴収が厳しく行われ、水道料金が払えず生水を飲んでコレラにかかるケースもあった。その背景にあるのはIMFと世界銀行による圧力であった。一方、水ビジネスはグローバル経済に組み込まれ、巨大化した。典型的なのがボトル・ウォーターである。1970年代に10億リットルだったボトル・ウォーターの貿易量は2000年には840億リットルに達した。原産国外への輸出もその25%にのぼる。ちなみに、日本はそのうち2億2万リットルを輸入し、国内でも10億2万リットルを「生産」している。なお、輸入について言えば、日本はそれ以外にも穀物や肉類の輸入によって、国内の水使用量総体の85%にのぼる水資源を間接的に輸入している。

激増する水需要を支えてきたのが河川におけるダムの築造と地下水の汲み上げである。ダムは過去100年間で4万箇所に建設され、地表面積の約1%がこれによって水没した。一方、地下水の汲み上げは減少量が目に見えないだけにタチが悪い。農業用水として汲み上げられる地下水の量は膨大であり、地盤沈下や塩害をもたらし、耕作地の放棄に至るケースもある。

環境問題といえば地球温暖化ばかりがクローズアップされるが、水をめぐるテーマも、もっと議論され、認識を深めて良いテーマであるように思われる。「石油の奪い合い」から、今度は「水の奪い合い」が世界中で始まるだろう。いや、ヨルダン川をめぐるイスラエルパレスチナの戦争のように、宗教上の争いのようにみえて、実は水資源をめぐる紛争が、すでに世界各地で起きているのである。