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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【612冊目】早瀬圭一「痛快ワンマン町づくり」

行政・自治・分権

痛快ワンマン町づくり (ちくま文庫)

痛快ワンマン町づくり (ちくま文庫)

東京の江戸川区に、中里喜一という区長がいた。昭和39年から平成元年まで、35年もの長期政権である。しかもその間、次々と独創的な政策を打ち出し、今の江戸川区政のまさに礎をつくった人物である。本書はその中里区長を主役とし、中里区政を支えた個性的な職員にも光をあてながら、その政策展開の軌跡を追ったドキュメント。

江戸川区の独特な政策展開は「知る人ぞ知る」ところであって、新聞報道でも、都内にあって例外的な高出生率を誇る区、あるいは親水公園の整備が進んだ区などとして取り上げられることが多い。しかし、そのルーツのほとんどがこの中里喜一という傑出した首長によって築かれたことは、本書を読んで初めて知った。

「ワンマン町づくり」とタイトルにはあるが、実は区民の声を実に細やかに聞き届け、スピーティに実現に結びつける人でもあったようだ。ポニーランドやスケート場など、その例には枚挙に暇がない。一方、ゼロ歳児保育をめぐるやりとり(本書では議会における迫真のやり取りがほぼそのまま収録されている)に見られるように、行政はかくあるべしという確固たる哲学の持ち主でもあった。この両者、普通であれば矛盾する資質であるが、中里区長の真に稀有であったのは、この二つが絶妙のバランスで同居していたことにあるように思える。

行政のトップには確固たる哲学と大きな耳を持つ人物が必要である、という当たり前の事実を再認識させてくれる一冊。もっとも、読むと自分とこの首長と比べてうんざりするかもしれないが。