【597冊目】読売新聞北海道支社夕張支局「限界自治 夕張検証」【598冊目】保母 武彦他「夕張 破綻と再生」【599冊目】川村 匡由他「地域福祉の原点を探る」
- 作者: 読売新聞北海道支社夕張支局
- 出版社/メーカー: 梧桐書院
- 発売日: 2008/03
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- 作者: 保母武彦,佐々木忠,平岡和久,河合博司
- 出版社/メーカー: 自治体研究社
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- 作者: 川村匡由
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いろいろな意味で、対照的な3冊であった。3冊で対照というのも妙だが、正確には「限界自治」と「破綻と再生」がひとつのコントラストをなし、さらにこの2冊に対して「福祉」がもうひとつのコントラストをなしている。
最初のコントラストは、夕張の財政が破綻に至った原因についての見方の違いである。「限界自治」は、国や道への責任にも触れつつ、主として中田元市長の乱脈財政とワンマンぶりが破綻の要因をつくったと見ているようだ。一方、「破綻と再生」のほうは、夕張市の責任にも言及しているが、重点が置かれているのはむしろ、石炭政策転換以来、すべてのツケを市に負わせてきた「国と道の責任」。夕張市は、被害者とまではいかないが、国策の犠牲者のように扱われている。
確かに国や道に責任がないとは思わない。しかし、2冊を読み比べた印象では、「限界自治」の説得力に軍配が挙がる。これは夕張の破綻のプロセスをずっと現場で追い続けた新聞記者によって書かれたものであるが、やはり現場に身を置いていた人間ならではの視点、プロのジャーナリストならではの事実の積み上げ方や文章力が光っている。何より、自治が崩壊する「現場」が生々しく感じられる。
一方、「破綻と再生」のほうは、まあ学者さんが書かれているものをプロの記者と比較するのも申し訳ないのだが、それを差し置いても説得力がない。結論先取りで「国や道が悪いに決まっている」という書き方ばかりだし、それを論証しようという姿勢もみられない。個々の事実はあってもそれが有機的につながってこない。あるいは結論と強引に結びつけようとする牽強付会が目立つ。まあ、組合のアジビラの著作版に近い出来栄えの一冊だ。
さて、この2冊が主として夕張市という自治体を大きく捉え、その破綻の要因を探るという過去向きのベクトルを有している(「破綻と再生」では、今後に向けた提言というのもなされているが、これは再建計画に対するアンチテーゼの提出に終わっている)のに対して、「福祉」のほうは、文字通り夕張の医療や福祉の現在を捉えようとした一冊である。
こちらも学者さんが中心となっているのだが、これは(やや抽象的な部分も目立つが)わずか1週間の滞在から書かれたとは思えない詳細なリポートになっている。特に、社会福祉協議会や地域の住民団体、NPOなどの、役所以外の福祉の担い手に着目し、役所の補助金やサービスが次々と打ち切られる中で行われている現場の奮闘を記録しているのが特徴。
実際、ここで書かれた福祉の内容は、「役所なき福祉」がどのようなものになるのかというモデルケースとなっており、興味深い。社協をはじめ福祉関係団体の多くは、望むと望まざるにかかわらず自治体の補助金に多くを依存している。その中ですっかり依存体質になってしまい、役所の下請け機関化してしまっている団体も少なくない。
その中で、今の夕張に見られる「補助金なし」「援助なし」の中での福祉活動は、本来の福祉というものがどういうものだったかを思い出させてくれる。特に、福祉を支える存在としてここで立ち上がってくるのが、地元のコミュニティである。コミュニティと福祉が本来は密接な関係を持っていることを、本書は再確認させてくれる。
夕張の破綻に関してはいろいろと考えさせられる点が多い。市長や市役所の放漫財政のツケを市民が蒙るいわれはどこにあるのか。市民にとっての「罪」とはなんだったのか。また、職員の給料カットで職員が流出し、行政活動をまかなえない状態になるとしたら、そのような給料カットは何のためなのか。あるいは、行政サービスを極限にまで減らすことで住民が流出し、残された住民がさらに苦境に立たされるとしたら、そのような再建計画は誰のためのものなのか。
結局、総務省が主導した夕張市の再建計画をみると、金勘定のことしか書いていない。確かに、借金は返済しなければならない。しかし、そのために地域が崩壊してしまってよいのであろうか。会社を潰すように、地域をひとつ潰してしまってよいのであろうか。
そこには生きている人間がいるはずである。そこから動けないお年寄りもいるはずだ。そういう人が生活している場所こそが、「地域」なのだと思う。その生活をどう守っていくか、という、一番大切なことが抜け落ちているのが、総務省が「合意」した夕張市の再建計画ではなかろうか。
破綻する自治体が今後、どれほど出るのかはわからない。しかし、夕張市が遭遇した破綻処理のやり方は、どこか大切な筋道を踏み違えたものに思えてならない。