自治体職員の読書ノート

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【546冊目】伊藤章雄「公務員の教科書 国語編」【547冊目】青山やすし「できる公務員のための文章術」【548冊目】岩淵悦太郎編著「悪文」

公務員の教科書 国語編

公務員の教科書 国語編

できる公務員のための文章術

できる公務員のための文章術

悪文 第3版

悪文 第3版

こういう本の感想は書きにくい。何しろ「文章術」に関する本であるから、書いたはしから、本当にちゃんと本から学んだのかを問いただされているようなものだ。しかし、そんなことを気にしていたら怖くて書けなくなるので、ひらきなおって進めていく。

さて、「文書主義」と言われるくらい、役所の仕事というのは国も地方も「文書」で進む。それだけに文章の書き方というのはものすごく大事である。中でも一番大事なのは「公文書」。したがって、公文書の書き方についてもいろいろな本が出ているところではあるが、ここではそれだけにとどまらない、文章一般、言葉一般に関する本を並べてみた。ちなみに、「教科書」と「できる公務員の…」の著者は、両方とも元東京都職員。それだけに、具体的な事例や役所の組織に関する説明のトーンが妙に揃っている。

伊藤氏には「行政マンの文章術」という類書もあるが、本書のほうが新しく、内容もユニークであるためこちらを選んだ。特に面白いのは、「公務員の使うコトバ」を考えるにあたって、日本語の起源にまでさかのぼって考察している点である。かつて、公文書は漢文で書かれていたのに対し、女性たちによってひらがなが作られ、独自の「やまとことば」が生まれてきたのだが、そうした視点でみると、役所の文書が現代でも堅苦しい言い回しを多用する背景には、公文書を漢文で書いていた時代の名残があるのかもしれない。こうした認識が、「やまとことば文脈で公用文をつくる」という、本書の結論につながっている。

一方、「差別用語」の一覧や、実践的な「文章力の鍛え方」、さらには話術に至るまで、具体性が高いのも本書の特徴。コトバにとことんこだわり、「深さ」と「具体性」を両立させた一冊である。

一方、同じ元都職員の青山氏による「できる公務員の…」は、文章術のみならず公務員の仕事というものを全体的に取り上げた一冊。ここでは、文章術は仕事術の一部、という位置づけがなされており、「できる公務員」(書いてみると、なんとも恥ずかしい言葉だが…)になるための仕事術が具体的に挙げられている。どこを見ても、さすがに都庁で副知事にまで登りつめた方の言葉であり、参考になる点が多い。ちなみに、できる公務員がもっている力として著者が挙げているのは「情報を扱う力」「組織を運営する力」「自己を律する力」「仕事を遂行する力」「相手を動かす力」の5つ。公務員というのは(他の仕事も突き詰めれば同じだと思うが)全人格的な力が問われる職業なのだな、とあらためて認識させられる。もちろん、この5つの力すべてを一人の人間が兼ね備える必要はないとのこと。その中で自分の長所・欠点を自覚し、組織の中での位置づけを考えていけばよいのである。

とはいえ、タイトルで文章術と銘打つだけあって、こちらも文章の書き方を幅広く論じている。「教科書」と重なる点も多いが、あえて比較すれば、いわゆる「てにをは」や語句の使い方よりは、文章全体の構成の仕方など、マクロ的な文章術が中心となっているように感じた。

もう一冊の「悪文」は、公務員向けの本ではないが、文章術を論じた本の中では古典のひとつ。奥付をみると、初版が1960年というから、なんと50年近く前の本である。しかも現行の第3版が出たのが1979年、その後18刷を数えて現在に至っている。世に文章術の本は山ほどあるが、有名な作家が書いたようなものを除けば、これほどのロングセラーはちょっとめずらしい。

これは徹底して文章指南に徹する一冊。さまざまな悪文を挙げては問題点を指摘する、というスタイルであるが、驚かされるのは、あらゆる悪文のパターンを網羅し、分類して示している点だ。目次を見れば一目瞭然なのだが、序章のような「悪文のいろいろ」に続き「構想と段落」「分の切りつなぎ」「文の途中での切り方」「文の筋を通す」「修飾の仕方」「言葉を選ぶ」「敬語の使い方」と、大きく「文章全体」から「個々の言葉」へと流れている(実際は、さらに具体的な小見出しが並んでいる)。そして、この中のどこかに、「悪文」たる要素のことごとくがおさまるのであり、そのことにまず恐れ入った。

さらに、挙げられている具体例が、新聞記事から投書、広告、さらには中学生の文集まで、よくぞここまでと思えるほど幅広い。その多種多様な文章から、悪い要素をピンポイントで抜き出して読者の前に示すと、その問題点を明快に指摘し、場合によっては「正しく」書き換えてみせる。まさに文章クリニックの名人芸である。挙げられている文例を読むと、さすがに時代が古くなった感は否めないが、なるほど、これを超える本はそう簡単には作れまい。

なお、当たり前といえば当たり前であるが、3冊とも言っていることはほとんど共通している。行き当たりばったりで書きださないこと、一文は短くすること、言葉遣いはわかりやすく、シンプルにする(ただし省略しすぎない)こと、主語と述語の対応に気をつけること、必ず推敲すること……。つまり、文章術の要諦そのものには、目新しい話はほとんどないのである。それでも弊ブログを含め悪文の種は世に尽きない。分かっていてもやろうとしないという怠惰こそが、文章術の最大の敵なのかもしれない。

☆これまで読んだ関連本
【98冊目】和田秀樹「大人のための文章法」
【446冊目】井上ひさし「自家製文章読本」
【449冊目】丸谷才一「文章読本」
【501冊目】井上ひさし他「井上ひさしと141人の仲間たちの作文教室」