自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【528冊目】三浦佑之「古事記を旅する」

古事記を旅する

古事記を旅する

古事記ゆかりの地をめぐる一冊。日本海側を福岡から出雲、敦賀を経て諏訪に至る日本海側ルート、高千穂から熊野、伊勢を経て千葉に至る太平洋側ルート、奈良界隈を集中的にめぐる奈良エリアの3部構成となっている。

まず写真が素晴らしい。各部のトビラにある豊富なカラー写真、文中のモノクロ写真が、「古事記の今」を実に雄弁に伝えている。特に、写真で見るだけでただごとではない雰囲気を感じさせるものが多く、千年単位の歴史を経て伝えられ、守られてきたものの凄味を感じさせてくれる。写真が印象的だったのは出雲の猪目洞窟、加賀の潜戸、淡路の上立神岩、大神神社宇治上神社など。古事記という古代の物語が、ここでは今も息づいている。そのことを、本書は何より説得力をもって語ってくれている。さらに熊野や那智をはじめとする各地の祭礼も、「生きた古代」「生きた古事記」のありようを見せてくれており、今の日本が流れ来たった源流を示してくれている。

また、自治体職員として気になったのが、各地の「古事記」ゆかりの名所旧跡の保存状況である。半ば放置されているところからきちんと保存管理されているところ、さらにはけばけばしく観光地化されているところまで、その状況は地域によって実にさまざま。面白かったのは鳥取の白兎神社。最初に訪問した折は殺風景で忘れ去られたようであったため、そのままを雑誌に載せたところ(書き忘れたが本書は「文藝春秋」への連載を書籍化したものである)、再訪したら雑誌で指摘した点がすっかり改まっていたという。間違いなく誰か関係者が記事を読んであわてて直したのだろう。

よく考えたら、古事記は子供の頃にダイジェスト版を読んだきりで、改めてしっかり読んだことがない。日本のルーツのひとつは間違いなくここにある以上、これはそのうちしっかり読まなければなるまい。