自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【495冊目】村松岐夫編著「公務改革の突破口」

公務改革の突破口―政策評価と人事行政

公務改革の突破口―政策評価と人事行政

NPM(新公共経営)による国や地方の行政改革の可能性を、主に「人事評価」と「政策評価」において探る本。

「人事評価」については、NPMの考え方を合わせ鏡のようにして、「遅い昇進」「ゼネラリスト偏重」「一律の公務員制度」等、現行の人事制度のもつ問題点を指摘し、その解決策を探るものとなっている。そもそも、現在の人事システムが組織の「マネジメント」として位置づけられていないこと自体が問題であろう。昇進や異動等の人事行政はだいたいが人事担当課の独占業務となっており、外部の声を容れる仕組みも、また長期的な人材育成システムも、(自治体にもよると思うが)整っているとは言い難い。特に、職員のキャリアデザインという面から見れば、悪いが現在の人事システムはお粗末そのものである。ゼネラリストといえば聞こえはいいが、その内実は実に薄っぺらである。

また、「政策評価」についてもその形骸化が言われて久しく、本書でも指摘されているとおり、先駆的に導入した自治体の中でも、その「見直し」「再検討」が課題となっているところが少なくない。本書はその実態を紹介した上で、従来型の政策評価の再検討とあわせて「公共事業評価」「規制影響評価」についても詳細に解説している。

要するに人事にせよ政策評価にせよ、それを「何のために行うのか」という目的意識の問題が初めにあるのであって、NPMの発想は、そうした出発点に立ち戻ってこれらの制度を抜本的に考え直すための契機となるものである。もっとも、NPM自体に対しても本書は無批判ではない。特に重要と思われたのが、公共哲学の側面からNPMを考察した一章である。住民を「顧客」とみなすNPMの発想に対して、住民を「政治的・行政的主体」「パートナー」とみる考え方をぶつけているのだが、これはNPMをめぐる行政のあり方を考えるにあたって非常に重要な指摘であるように思う。