自治体職員の読書ノート

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【491冊目】奥田英朗「サウスバウンド」

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)

サウスバウンド 上 (角川文庫 お 56-1)

サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)

サウスバウンド 下 (角川文庫 お 56-2)

元過激派の父親をもつ小学校6年生、上原二郎君が主人公。前半が東京、後半が西表島と舞台が変わるのだが、印象的なのは、東京ではほとんどばらばらだった家族が、西表島の電気もない家に引っ越してから、徐々に結びつきを取り戻してくるところ。特に、東京では昼間から家でごろごろして能書きばかりの、我の塊のような父親が、島では周りの人々とも仲良く調和し、人が変わったかのように農作業や漁に出るなど、がらりと変わり、生き生きしてくる。もっとも、「官」や「大資本」を嫌うところは全然変わっておらず、そのあたりが後半のリゾート開発がらみの騒動で火を噴いてくるのだが・・・・・・。

この小説、とにかく強烈なのはこのお父さんである。以前は伝説的な過激派だったのだが、運動に幻滅してからは組織的な運動には参加せず、ひとり個人の信条を貫いている。その様子が、最初のほうでは単なる始末に負えない活動家くずれ、厄介なオヤジという程度の印象なのだが、その筋を曲げないところや一本気な不器用さが、話が進むにつれてだんだんカッコよく見えてくるから不思議である。それはまた、二郎君の親父に対する理解と再評価のプロセスでもあるのかもしれない。

そして、何よりこの小説の軸となっているのが、主人公の上原二郎の成長物語である。特に前半、東京での小学生生活は、自分が似たような環境で小学生時代を送っていたせいもあろうが、ひとつひとつのエピソードがなんとも懐かしかった。友達の淳や向井、黒木など、どれも必ず似たような奴がいたものだ。それに中学生の悪ガキ、カツとのエピソードも。小学校6年生という精神的にも肉体的にも大変化が起きつつある難しい年頃を、この小説は実に的確でリアルに描写している。そして、この前半での東京での生活があったからこそ、後半の西表島での生活で、急激にたくましく成長するところに説得力が出てくるのだと思う。

登場人物も魅力的、ストーリーもテンポよく軽快に進み、沖縄の青空と海が何とも眼にまぶしい一冊。おすすめ。